63歳の主婦が大谷翔平にならって「マンダラチャート」を埋めてみたら……? 垣谷美雨のタイムスリップ小説が面白い

垣谷美雨のタイムスリップ小説が面白い

 では、男性だったら生きやすい時代だったかと言われたら、それも違うようだ。女性が「女の役目」を強いられてきたのと同様に、男性だって「男らしさ」に縛られてきた。そう訴えるのは、雅美と同じくタイムスリップしてきたという天ヶ瀬。これが、中学生時代に雅美が密かに想いを寄せていたイケメン同級生というのも夢がある設定ではないか。中学生の頃の片想いの相手なんて、歳を重ねるほどノイズが削ぎ落とされ美しい思い出になっていくばかりだろう。

 だが、待てよ。そんな美化されまくっている天ヶ瀬だからこそ「男の本音」なんて聞きたくなかったという面もある、あれだけ憧れていた天ヶ瀬にも関わらず、その発言に「彼もまた他の男性と変わらないのか」と幻滅することも。むしろピュアな思い出という宝物が思わぬ形でいじられてしまうというのは残酷なことかもしれない。

 しかし、この時代に令和の感覚を持って意見交換ができる相手は彼しかいないのだと、どんなに難しい状況に陥っても連絡を取り続ける。そして、お互いに生きたかった自分の人生の実現に向けて励まし合う同志となっていくのだ。このタイムスリップの結果、2人がどのような未来を迎えるのかはぜひ本編で見届けてほしい。

 そして、タイムスリップという非現実的な現象は、私たちも読書を通じて体験することができる。昭和の時代に生きる自分を想像しつつ、そして本を閉じて令和に戻ってきた自分が何をするか、だ。まずは9×9マスの線を引くところから始めてみたいと思った。

■書誌情報
『マンダラチャート』
著者:垣谷美雨
価格:2068円
発売日:2024年11月20日
出版社:中央公論新社

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