『サイボーグ009 太平洋の亡霊』は今読むべき一冊 石ノ森章太郎が込めた平和への願い

『サイボーグ009 太平洋の亡霊』レビュー

「新しい戦前」といわれているいまこそ読むべき物語

 なんといっても、本作で注目すべきは、物語の終盤に見開きで挿入される「日本国憲法第九条」の条文だろう。これは1968年のアニメ版でも、同じように画面上に大きくインポーズされるものだが、日本の現政府が「改憲」に傾いているいまこそ、オリジナルの脚本が書かれた当時とは別の、そして、極めて重要な意味を持ってくるのではないだろうか。

 また、個人的に興味深く思ったのは、その脚本を手がけた辻真先が、一連の「太平洋の亡霊」によるテロ事件を、009たちの本来の敵である「黒い幽霊団」の仕業(しわざ)としなかった点だ。ネタバレになるので詳しくは書けないが、「太平洋の亡霊」を甦らせた“黒幕”は、戦争を心から憎んでいる一個人である。

 そう、辻は、戦争というものは、(歴史や時代を動かす大きな全体性の中ではえてして見えにくくなるものだが)国家同士の問題ではなく、あくまでも小さな「個人」の悲惨な体験の集積であるということを、あらためて当時の視聴者たちに突きつけたのだ。

 いずれにせよ、今回の早瀬マサトによるコミカライズ作品は、「新しい戦前」などといわれているいまこそ、読むべき物語であることに間違いはないだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる