【連載】速水健朗のこれはニュースではない:ロストウェイブを巡る話

ロストウェイブを巡る話

「幻の名盤」が幻を超えることはない

 レア盤、珍盤の類いは、そもそもレコードの玉数が少ないからレアだったわけで、コピー、シェアのネットの時代には、原理的には起こりえない。レアグルーブの新分野みたいなものも掘り尽くされている。その時代にミステリアスな膜に覆われた音楽の「ロストウェイブ」が価値を持った。

 ただしEveryone Knows Thatの探索がはじまったのは2021年だ。たったの3年。ちなみに、チャーリー・パーカーの幻の録音テープは、パーカーの死後、30年以上経って見つかって世にリリースされた。生前の大量にテープ録音が残っている話は、パーカーの伝記作家やマニアたちの間ではよく知られていた。いわゆるディーン・ベネディティの"プライベート録音テープ"。それは、パーカーの死後30数年が経って発見され、CD7枚組でリリースされる。これがもし、パーカーの死後3年後にリリースされていたら、それほどミステリアスとはされなかっただろう。

ビーチボーイズ『ペットサウンズ』

 僕の高校生、大学生、20代の頃まで、ビーチボーイズの『SMilE』は伝説の存在だった。ブライアン・ウィルソンの精神的な不調やメンバーとの不和、レーベルとのトラブルで完成間際でお蔵入りした幻のアルバム。それが1967年のこと。以後、その前作にあたる『ペットサウンズ』の評価が高まり、『Smile』への幻想も高まった。もし『ペットサウンズ』のあとに順当に『SMilE』がリリースされていたらビーチボーイズは、ビートルズよりも先をいくロックバンドになっていたのではないか。

ビーチボーイズ『SMilE』

 ただ、2000年代になってブライアン・ウィルンソンのソロ名義で『SMilE』が発売された。このときのブライアンのワールドツアーには僕も行ったはずだ。ただそれが何年のライブか、もはや記憶にすらない。実際にリリースされた『SMilE』は、お祭にはなったが、「幻の名盤」が幻を超えることはない。

 再度、僕の個人的なロストウェイブの話を聞いてほしい。僕はエアチェック少年で、12,13歳のときに片っ端からラジオの音楽番組を録音していた。そのときに曲名紹介なしでかかっていて、ずっとタイトルも歌手もわからなかった曲がある。著作権法上、ポッドキャストに既存楽曲をそのまま挙げるのは気が引けるが、テープ特有の劣化があり、音質的に権利を侵害しないレベルなのでお目こぼし願いたい。80年代の曲で女性ボーカル。声やメロディ、アレンジなどは、EPOに似た感じだが、EPOの楽曲は聞いた。なのでEPOではない。Shazam以外のアプリもいくつも試したが、引っかからない。僕が知らないだけで、これが実はよく知られた曲である可能性はある。ただ、シティポップの復刻のコンピレーションCDなどをつくっている知り合いに聞いてもらったがダメだった。知っている方は、ぜひ僕宛にメールで教えてほしい。

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