西原理恵子「偽札を刷っているような感覚ですね(笑)」 全く絵が上達しなかった漫画家生活35年を振り返る

西原理恵子、漫画家生活35年を振り返る

鬼才・西原理恵子、デビュー35周年

西原理恵子『サイバラ10年絵日誌』
西原理恵子『サイバラ10年絵日誌』(双葉社)

 デビュー35周年を迎えた漫画家・西原理恵子と作家の故・伊集院静がコンビを組み、「週刊大衆」に連載していた漫画が『サイバラ10年絵日誌』(双葉社/刊)として一冊の本にまとまった。発売に合わせて、過去に出版されていた『サイバラ絵日誌』も重版になるなど、西原の漫画は時代を超えて愛される魅力がある。

 さて、『サイバラ10年絵日誌』は伊集院との生前のエピソードを描いた「伊の字先生篇」のほか、高須クリニックの高須克弥院長と過ごす時間を描いた「ダーリン篇」、そして、最大の見どころと言っても過言ではない作家・岩井志麻子と過激なトークが展開される「しまんこちゃん篇」など、濃密すぎる全7篇によって構成されている。

 お馴染みの過激な下ネタギャグからエロネタ、強烈なデフォルメが効いた似顔絵など、“サイバラ節”が全ページで全開である。そんな西原の漫画にみられる誇張表現は、実はギャグ漫画の王道なのだと気づかされる。しかし、西原のようなスタイルの漫画は希少な存在となりつつある。それが、ますます注目を集めている要因かもしれない。

 2025年1月には西原と岩井志麻子の共著『サイバラしまこ悪友交換日記』も発売されるなど、絶好調の西原理恵子に、自宅でインタビューを敢行。10年間の濃密な歩み、そして飽くなき創作と“エロ”への関心について迫った。

適当にハナクソほじりながら描きました(笑)

西原理恵子

——「週刊大衆」の連載が今回の本にまとまることになりました。西原先生しか描けないような過激な下ネタ、エロネタが爆発していますね。

西原:最初は伊集院静さんとコンビを組んでエッセイ感覚で描かせていただいていましたが、連載途中で伊集院さんがお亡くなりになってしまい、もう連載も終わりかな…と思っていたら、その後は(岩井)志麻子ちゃんとコンビを組むことで新連載が始められました。私はエロ本上がりの漫画家なので、エロが大好きなのです(笑)。今ではコンプライアンスなどの観点でエロが封じられがちですが、初めの頃はどんなエロネタを使っても大丈夫だったので、自由に描かせていただきました。

西原理恵子『サイバラ10年絵日誌』より

——そんな連載を読み返してみると様々な思い出がよみがえって、感慨深いのではないでしょうか。

西原:いや、読者のみなさんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。絶対に本にまとまることはないと思って、朝イチ5分でいい加減に、ハナクソをほじりながら描いてきましたから。ストーリー展開もクソもないし、言葉遣いなども深く考えず、便所の落書きのような気持ちで描いていた連載が、まさか本になるとは思いませんでした。

——書籍化はまったくの想定外だったのですね。

西原:私の10年間のこんなにいい加減な仕事を、双葉社が本にしてくださいました。今、双葉社にそんな経営体力があることに驚きです。しかも紙代が上がっているので、本の値段が高い。電子だけにすればよかったのにと思います。こんな本、誰が買うんだろうと思うけれど、うっかり買ってしまった方には、ただただ「申し訳ありません」と謝るしかないですね(笑)。

岩井志麻子さんは、エロ以外は真面目です

西原理恵子
——本の中には西原先生の10年間が凝縮されています。今まで会った人には印象的だった人がたくさんいらっしゃると思いますが、インパクトで群を抜くのは、やはり岩井志麻子さんですよね。

西原:こんなに私は志麻子ちゃんが好きだったんだな……と思うほど、志麻子ちゃんのことばかり描いていますね(笑)。志麻子ちゃんとお友達になったのも実は「週刊大衆」がきっかけなのです。私は志麻子ちゃんファンツアーに必ずついていって、瀬戸内寂聴のような“エロ説法”をずーっと聞いているんですよ。

——どうして、岩井さんとそんなに気が合ったのでしょうか。

西原:今まで私には物書きのママ友がいなくて、ちょうど志麻子ちゃんも子どもが2人いて、お互いにバツイチという共通点があったし、子育てや男の悩みも気軽に話ができる関係になりました。実は志麻子ちゃんから「チンポ好き」をとったら、凄くまともな人なんです。真面目で、働き者で、正直者で、借金もせず、酒を飲んで暴れることもない。でも、チンポのことになると周りが見えなくなる(笑)。

——本に収録された岩井さんのエピソードは、強烈なものばかりですね。

西原:志麻子ちゃんと話すのは本当に楽しいんですよ。いつもビッチでやりたい放題のおばちゃん居酒屋トークになっています。志麻子ちゃんはサービス精神が凄くて、毎度、物凄いエロをぶちこんでくるんですよ。私も負けないように、腰を低く構えて打ち返そうとしますが、そうするとどんどんエスカレートして、気がついたらひどい有り様になっている。

西原理恵子『サイバラ10年絵日誌』より

——それにしても、岩井さんの話はいたるところに出てくるのに、伊集院さんについては…(笑)。

西原:伊集院さんのことは、ほぼ描いていないですね。申し訳なかったと思うんだけれど、本人もどうせ私のことなんか覚えていないだろうし、まあ、いいかなと……(笑)。ちなみに、伊集院さんの盛大なお別れ会がありましたが、私はもっともコンビ歴が長いはずなのに、私と作った本は著作がずらりと並んでいる中の端っこの方に置かれて、ほとんどなかったことにされていました(笑)。でも、最後まで伊集院さんはかっこよかった。野球部のキャプテンみたいな雰囲気で、憧れる男の人は多かったですね。

——岩井志麻子さん、伊集院静さん、そして高須克弥さんの3人は特にキャラが濃いですね。

西原:高須克弥は次から次へとトラブルを起こす人なので、ネタに困りませんね。その3人にまつわる“描きもらし”で構成されているのが今回の本です。

西原理恵子『サイバラ10年絵日誌』より

画材は150円のサインペン

——西原さんは漫画界で唯一無二の存在で、一目見て「西原さんだ!」とわかる絵柄が特徴です。

西原:連載が始まった頃は、「週刊文春」のカットみたいに、ちょっとかっこいい文字とふわっとした絵を入れるつもりでしたが、見ていられないぐらいきついですね。字が詰まりすぎているし、しかも字が汚い。私は右から詰めて描くので、よく左側が開くんです。少しは考えて描けよと思うんだけれど。一応、美大をちゃんと出ているんですよ。構図の取り方とか、予備校や大学の4年間で叩き込まれているはずなのに、同じ失敗を繰り返すんですよね。漫画家生活35年、全く絵が上達してません。

西原理恵子『サイバラ10年絵日誌』より

——先生が漫画を描くとき、画材は何を使っているのですか。

西原:150円のサインペンです。日本の文房具は最高ですよ。安いサインペンでも、凄く書き味がいいんです。ペン入れ前に下描きはあまりしていません。これくらいなら下描きなしで大丈夫だろうと思って描き始めたら、大失敗してしまうことが多いです。

——西原先生はあらゆる雑誌に連載を持っていましたし、最盛期の仕事量は想像を絶するものだったのではありませんか。

西原:そうですね。昔は1ヶ月60本くらいの締切をこなしていました。週刊連載の締切がどっさりあったので、過去を顧みる余裕がなかったです。今回の本が出たおかげで、ようやく仕事を振り返れるようになったかもしれない。思えば、ずっと休みなしで毎日締切漬けでした。朝2本、昼2本仕上げるペースだったりして、描いているときの記憶がないんですよ。

——凄まじいハードスケジュールですね。

西原:インプットしている時間がなくて、アウトプットしかしていないですからね。今は仕事が10分の1になって、ゆっくりできています。本人的には頑張っているつもりなのですが、クオリティも下がりまくってますから、そろそろ引退できそうな頃かなと。人間はそんな長く働いちゃいけないですからね。

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