編集者・柿内尚文、多忙な仕事人生を経て気づいた「時間」の真価 「人生で一番大切な仕事は、思い出づくり」

編集者・柿内尚文の時間術

選択基準がはっきりしていると楽に判断ができる

ーー2つ目の「忙しくて時間が足りない」という悩みについては、まずマルチタスクをやめてシングルタスクにすることの重要性を説いていました。

柿内:人の脳は元々マルチタスクに向いていないところがあるんです。それをシングルタスクにしていくことによって、時間の価値を高めることができます。目の前の物事にできるだけ向き合ったほうが、結果としては時間価値が上がって、多忙感も消えていくだろうと思います。

 ただ、人間はシングルタスクに飽きるものでもある。そういうときには柔軟にマルチタスクを取り入れることも必要ですね。「今はどちらがいいかな」と自在にコントロールしていくと、いいバランスになっていくと思います。

ーーまた、個人的にとても響いたのが、感情の乱れは時間の大敵だという指摘でした。確かに、誰かに頭にきたりするとそのことばかりを考えてしまって、時間を無駄にしているように感じます。

柿内:そうなんですよ。頭にくるようなことをされたのに、さらに大切な時間まで奪われてしまうという、二重罰のような状態になっている。しかもそう考えれば考えるほど、ドツボにハマっていく。

 そんな時は絶対に気持ちを切り替えたほうがいいです。もちろんそんな簡単に切り替えることはできないかもしれない。でも「ネガティブな感情によって時間が奪われている」と言語化して意識を向けることで、何らかの行動を起こして気分を変えることができるはずです。僕の場合は、たとえば会社で嫌なことがあっても、会社を出たらすぐにもう忘れるようにするように心がけていますね。

ーー最後は「時間をどう選択したらいいか」という悩みでしたが、選択する上で考慮する視点が7つ紹介されていました。つまり「後悔しないかどうか」「体験価値が高いかどうか」「体と心の声に従っているか」「幸福度が高いかどうか」「投資価値があるかどうか」「人に喜んでもらえるかどうか」「心地よいかどうか」と。

柿内:今でも僕自身、時間を無意識に選択してしまって、あとから後悔することがあるんです。例えば、何となく場の空気感に流されて仕事を引き受けてしまって、あとから大変になってしまうことがあります。そこでは自分の選択基準を持っておらず、その場の選択基準が自分の基準だと勝手に思い込んでしまっている。

 やはり、自分が何を大切にするのかの軸を持っていれば、咄嗟の判断も間違えにくくなると思います。ちゃんと「断る」という選択肢が取れるはずなんです。わかりやすい例をあげれば、ダイエット中であっても目の前にたくさんの料理が出てきたら、食べ切るという選択をしてしまいがちです。咄嗟の判断で「もったいないし食べてしまおう」と考えてしまう。でも、しっかりと自分の基準を持っていたら「食べきらずに残そう」という選択肢だってできるはずです。自分にとって、捨てるもの/拾うものの基準値をしっかり持っておきたいですね。

 最近、僕は人に飲み会など誘われても、いま忙しいな、時間をかけられないなと判断すれば、断れるようになってきました。これができると楽になりましたね(笑)。昔は飲み会もしょっちゅうで無理して行くようにしていたんですが、ある時から選択基準をもって判断するようにしてきました。

一番大切な仕事は、思い出づくり

ーー本書では「人生でしなければならない一番大切な仕事は、思い出づくりです。最後に残るのは、結局それだけなのですから」(ビル・パーキンス)という言葉を紹介していて、印象に残りました。

柿内:これは世界的ベストセラーになった『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ビル・パーキンス著)からの引用なんです。すごくいい本だと思いますし、特にそのように言い切ってくれたことがすごくよかった。

 昔、あまりに仕事で多忙すぎた時期のことを思い出すと、記憶が消えているようなことがあります。もし人生の最後に自分の人生の走馬灯を見ることがあったとしたら、一体何を振り返るでしょうか。忙しさのあまり出来事がすぽっと抜けてしまっていてはもったいないですよね。そこで思い出せるのは何かといえば、「過去の自分が出合った事柄」=「思い出」だと思います。そのためには思い出をちゃんと作ることを、言語化して意識することが大事です。一回の食事でも旅行でも、思い出にちゃんと変えようと真剣に考えてみる。もちろん、急なハプニングが思い出になることもあるでしょう。いずれにせよ、普段から意識をしていくと思い出ができやすいと思います。

 旅行であればマルチタスク的なプランではなくて、シングルタスク的なプランのほうがいいですね。あれもこれもと予定に入れていくのではなく、目的を明確にしていくわけです。例えば、一杯のラーメンを食べるために、友達と一緒に車で関西まで行く。そういう体験は思い出に残るんですよ。そのラーメン自体が美味しかったかどうかは実は重要ではありません。そこまでのプロローグとしての過程が徹底的に面白くなっていく。そのようにできるだけシングルタスク的な発想でトライしてみると、いい思い出がたくさん残るように思います。


■書籍情報
『このプリン、いま食べるか? ガマンするか? 一生役立つ時間の法則』
著者:柿内尚文
価格:1650円
発売日:2024年4月6日
出版社:飛鳥新社

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