みのミュージックが“日本の音楽通史”を編み上げた理由 「ここを出発点にして、集合知を歴史観につなげたい」

みのミュージックが“日本の音楽通史”を編み上げた理由

 

贔屓目ではなく、日本の音楽の鉱脈はすごい

——その後のアイドル文化、アニソン、ボカロなどの盛隆によって、J-POPは形を変え続けていて。そのダイナミックな変化を体感できるのも、「にほんのうた」の面白さだと思います。

みの:仰るとおり、今も変化は続いていますからね。自分自身もそのなかにいるから、俯瞰して観測することは難しいんですが、ひとつ言えるとしたら、平成の時代に切り離そうとした歌謡的な部分が「意外とクサくないな」と認識されるようになったのは大きいと思います。これも「海外の人に褒められた経験」だったりするんですが(笑)、シティポップが世界的に知られるようになり、ジョニー大倉的な日本語と英語をちゃんぽんした歌詞がウケて。それって「国内の洋楽リスナーが感じる、邦楽のダサい部分」の最たる特徴だったじゃないですか。いわゆるヨナ抜き音階(“ファ”と“シ”を抜いた音階。民謡や童謡などに多く使われている)のメロディもあえて引っ込めないで、若いアーティストもむしろ積極的に使うようになって。そのまま国際競争力を持てるようになってきているのかなと。

——米津玄師、YOASOBI、King Gnuなどの楽曲にもヨナ抜き音階を感じることがありますからね。

みの:(日本のアーティストが海外を視野に入れた活動をする場合)ちょっと前までは現地のルールに沿うのが当たり前だったなのに、かなり変わりましたよね。そこにもいろいろな要素があると思っていて。アニメの主題歌などを繰り返し聴いたり、一定以上のJ-POPを浴びることで、海外のリスナーの耳が慣れてきたというか、チューニングされてきた部分もあるだろうし。日本の音楽はアーカイブの量がすごいので、伸びしろはめちゃくちゃあると。海外の人たちがそのことに気づいて、日本の音楽を掘り出したら驚くでしょうね。

——日本の音楽の鉱脈はすごいぞ、と。

みの:贔屓目ではなく、すごくチャンスがあると思います。インバウンド的なノリと連動すれば、さらに広がっていくだろうし。……観光や文化で外貨を稼ぐみたいなのって、平成を知っている人間としては切ない部分もありますけどね(笑)。

——そういう時期に日本の音楽の通史を綴ろうと試みる書籍が出るのは、大きな意味があると思います。

みの:そう思ってもらえたらうれしいですね。ただ、この本はまったく完璧ではなくて。発売前から「この本、どうなんだ?」と炎上しましたけど、ここを出発点にして、みなさんでさらに肉付けしてもらえたらなと。その集合知から集合意識のなかの音楽観、歴史観みたいなものにつなげるのが目標ですね。なので音楽の知識に覚えのある人はぜひ、批判的な目で読んでいただきたいと思います。もちろんそこまで構えなくても、なんとなく興味を持って手に取ってもらえるだけでうれしいんですけどね。

 なんなら後半の戦後のパートから読んでもらってもいいしーーいちばん知ってほしいのは明治期なんですがーーラップだけとかレゲエだけでもいいと思っていて。どこからでも読める本を意識していたし、なんとなく読み進めていくうちに「気づいたら読み終わってた」という感じでいいのかなと。


——最後に、みのさんのフラットな批評精神の源泉はどこにあると思いますか?

みの:20代の頃にシアトルに8年くらいたんですけど、欧米の人ってめっちゃ批評が好きなんですよ。音楽に限らずいろんな事柄を論じてるんですけど、日本のことに関してはかなり誤解されている気がして。自分たちの主観的な歴史が絶対だし、たとえば第二次世界大戦の話になると、まったく議論がかみ合わないんです。「あれは日本が狂ってやっちゃったんでしょ?」っていう。それもかなりの部分当たっていると思うけれど、一方で外交の失敗もあるじゃないですか。でも、こちらが「さすがに石油が輸入できなくなったのはキツかったんじゃない?」と言ってもぜんぜん理解してくれなくて。それは彼らにとって思い描きたくない歴史なので、知ろうとしないんですよね。

——なるほど。それまで知らなかった情報を取り入れられるかどうかが、批評性の確度につながっているとは思うんですが。

みの:そうなんですが、意外と難しいみたいですね。僕自身も自戒を込めて、できるだけフラットであろうと心がけています。あとね、僕は“推し”的な感覚が一切ないんですよ。もちろん家族や友達は好きですが(笑)、特定のアーティストに心酔したことがなくて。そうじゃなくて、音楽そのものが好きでこの本を書いている、ということもお伝えしておきたいですね。

■書誌情報
『にほんのうた 音曲と楽器と芸能にまつわる邦楽通史』
著者|みの
定価|2,750円(税込)
販売日|2024年3月4日(月)
発行|株式会社KADOKAWA

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