漫画家、印税では食べていけない?  紙の単行本の発行部数激減が与える深刻さ「まさかこんなに減るとは」

漫画家、印税では食べていけない?

 ■紙の単行本の発行部数が減ると?

 「出版社から届いた、単行本の初版の発行部数を見て衝撃を受けました。たったの3000部って……。前の巻では8000部でしたが、こんなに減らされるとは思いませんでした。これでは生活できません」

  こう話すのは、ある大手出版社で漫画を連載している現役の漫画家A氏である。漫画家にとって、“印税”を生み出す単行本の発行部数は生命線だ。しかし、その発行部数が急激に減らされる例が目立っているというのだ。紙の単行本の急速なシェア縮小などが背景にあるのは間違いない。

 「連載作家はアシスタント代などを払うと、原稿料収入は月に数万円しか残らない人もいます。人によっては赤字ということもある。印税を臨時ボーナスと言う人もいますが、それはよほどの売れっ子の話。新人は印税があることでようやくトントンという感じなのですが、ここまで発行部数を減らされてしまうと、とても生活できません」

  かつて、商業誌で描くメリットはこの印税であった。1990年代の漫画黄金期であれば、「週刊少年ジャンプ」の作家であれば無名の新人でも3万~5万部を印刷してくれることもあったという。しかし、今では「マイナーな雑誌だと初版で3000部いけばいい方で、場合によっては単行本がでないケースもザラにある」とA氏は話す。

 「紙の単行本は発行部数に応じて印税が入りますが、電子書籍は売れた分だけ印税が入るケースがほとんど。なので、新人には電子書籍は圧倒的に不利なのです。もはや、漫画家が商業誌で描く旨味は“メディアミックス化”ができる可能性くらい。今後これほど単行本の発行部数が減ると、商業誌から離れる人も少なくないと思います。

  印税の比率は出版社によって異なり、単行本価格の10%だったり、5%だったりと様々だが、印税頼みの漫画家のビジネスが成り立たなくなるケースが出てくるのではないかと、A氏は指摘する。

 「出版社はせめてアシスタント代を補助するなど、漫画家の支援策を考えて欲しい。単行本が売れていた時代のやり方をいまだに引きずっているので、漫画家の負担は大きくなっている。メディアミックスで出版社は景気がいいと聞きます。その売り上げをどうか、新人の育成に回してほしいと思うのですが……」

 実際、かつて映画化やアニメ化を経験したベテランの間でも、同人誌の制作を真剣に考えている人が増えている。コミックマーケットなどのイベントだけでなく、同人誌を電子書籍で販売するケースは増加傾向だ。また、直筆の原画や色紙をインターネットや通販サイトで販売するなどして、少しでも収入を得ようという漫画家の試行錯誤が続いている。

 「電子書籍の印税が紙と同じなのはおかしい。在庫を抱えなくて済むのだから、15%、できれば20%くらいまで比率は上がらないものか」とA氏は訴える。発表の場の多様化、電子書籍の急速な市場拡大など、現在の漫画市場は過渡期にある。世界に誇る日本の漫画を盛り上げるためにも、早急なクリエイターの支援は欠かせない。

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