コクピットが殺人現場に! ガンダム×人狼ゲームの異色作『機動戦士ガンダム ウェアヴォルフ』がおもしろい

ガンダム×人狼ゲームの異色作を読む

 しかしどれだけ艦内の人間関係が殺伐としていようがドロドロしていようが、「まあ、ティターンズの軍艦だもんな……」となってしまうのが上手い。考えてみれば、グリプス戦役を描いた『機動戦士Zガンダム』は前ガンダムシリーズの中でも人間関係のギスギス具合ではトップクラスの作品である。同時代のティターンズ艦の中ならイジメもセクハラもあって当然、読めば読むほど「ああ、ティターンズの軍艦には乗りたくないなあ」「『Zガンダム』の時期の宇宙世紀って本当にイヤだなあ」と思うこと請け合いである。

 そんな中で、ラセッドによるイジメとセクハラの被害者だったレトとマカミが、「自分たちに殺人の動機がありすぎるので、投票による吊し上げを避けるために事件の真相を探る」という理由から探偵役になるという流れもスムーズ。人狼と言っているからにはこの後も被害者は出続けるのだろうが、それをこの二人がどう解決するのか、はたまた解決できずに死んじゃうのか。ただのドロドロした群像劇だったらウヘ〜となってしまうところ、主人公的な探偵ポジションがはっきりしていることでグッと続きが気になる作品になっている。

 強いて言えば「パッと見で女性キャラクターなのか男性キャラクターなのか分かりづらい」「モビルスーツ同士の戦闘の推移が読み取りづらい」などの難点はあるものの、主題はそこにないので全然目を瞑れる範囲である。とにかく「『ガンダム』という作品の設定の中で人狼ゲーム的状況を発生させ、そこに探偵役をぶつけることでミステリとして成立させる」というウルトラC的な難事業を成し遂げた作品なのは間違いなし。正直早く2巻が読みたい……と強く思わせてくれる、見事なページターナーである。

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