小説版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』早くも登場 読めば分かる、キラやラクスの葛藤と衝撃の展開

小説版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』で分かること

 『機動戦士ガンダムSEED』シリーズの約20年ぶりの完全新作となる劇場アニメ『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が1月26日に公開された。『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』で描かれた「デスティニープラン」をめぐる戦争から2年後を舞台に、新しい状況の中で新しい登場キャラクターたちを得て新しい「SEED」の物語が紡がれる。情報量も膨大で、1度見ただけでは展開に追いつけない人もいそうだが、1月30日に発売された『小説 機動戦士ガンダムSEED FREEDOM 上』(KADOKAWA)を読めば、映画で何が起こっているのか、登場人物は何を考えていたのかに触れられる。

 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の脚本を両澤千晶、福田己津央監督と共に手がけた後藤リウが書いたノベライズが『小説 機動戦士ガンダムSEED FREEDOM 上』。(原作:矢立肇・富野由悠季)。後藤は『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』のノベライズも手がけていて、「SEED」シリーズのアニメ同様に20年近い時を経ての執筆となった。

 「突然、福田監督からSNS経由でお声がけをいただいたのが、たしか二〇一九年の後半でした。劇場版SEEDのシナリオに参加しませんかというお話でした」とあとがきにあって、「両澤さんの残されたプロットを拝見して『ぜったい観たい!!!』となった」この劇場版に参加。それだけにノベライズは、劇場版のストーリーの展開をしっかりと追いつつ、キャラクターたちの心情にも触れられていて、劇場版を見た人ならキャラクターたちの言動にグッと近づける。

 人類が遺伝子ごとに適した役割を果たす世界を目指した「デスティニープラン」が、提唱者のギルバート・デュランダルとともに打ち砕かれてから2年。遺伝子操作によって生み出されたコーディネイターと、普通に生まれてくるナチュラルとの対立は依然として続いていた。混乱を収めようと世界平和監視機構・コンパスが作られ、初代総裁に就いたラクス・クラインの下、キラ・ヤマトやシン・アスカ、ルナマリア・ホークといった面々がモビルスーツを駆って紛争地帯に赴き、市民を巻き込む独立運動やテロと戦っていた。

 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は、そんな背景の上で幕を開け、戦いが憎しみを生むだけだということが「なぜわからないんだ!」と苦悩しながら、平穏のために戦うキラの姿が描かれる。「こんなことを、いつまで続けなければならないのだろう……」「この連鎖を、いったいいつ、どうやって断ち切れるのだろう?」といった小説版に書かれたキラの心情が、彼の優しさであり、それ故に覚える苦しみを感じさせてくれる。

 目の前に立ち塞がった敵を倒しても世界は平和にならなかった。それどころか、過激ではあっても恒久的な平和の訪れを指向したデュランダルの「デスティニープラン」を拒絶したことが、終わらない憎しみの連鎖を呼んでいる。そうした葛藤を抱えながらも、人類を遺伝子で選別し、人が自分の人生を選択する自由を奪うような「デスティニープラン」の復活だけは退けなくてはならない。そうしたキラの思いが、小説版ではしっかりと描写されていて、優柔不断のように見えて強い信念を持った人間だということを確認させてくれる。

 ラクスについても、コンパスの総裁として紛争の抑制に動いている理由を、ミーア・キャンベルについて振り返ることで明かしている。戦争終結の立役者としてもてはやされることに違和感を覚え、逃げたラクスの代わりにミーアはデュランダルによって引き上げられ、ラクスと同じ顔を与えられて歌を歌った。結果としてミーアが命を失った。「今度は、逃げずに立ち向かおうと思った」。それが今、ラクスが最前線に立ちづけている原動力になっている。劇場版では触れられないミーアへの思いが浮かび上がってくる小説版ならではの描写だ。

 平和を望むキラやラクスの思いをよそに紛争は続いていて、反プラント、反コーディネイターを掲げるブルーコスモスの活動が収まらないこともあって、コンパスはブルーコスモスを指揮するミケールの捕縛について協力を申し出てきた国家、ファウンデーションの提案を受ける。ラクスはキラやシンとともにファウンデーションを訪問し、女帝のアウラ・マハ・ハイバルや宰相のオルフェ・ラム・タオと対面する。

 下野紘が声を担当するオルフェが、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』でのキーパーソンになることは言っておいても良いだろう。まだ20才そこそこで宰相の地位にある聡明さが、オルフェをラクスやキラと同じコーディネイターだと感じさせる。オルフェに限らずファウンデーションの近衛師団に所属するブラックナイツと呼ばれる集団も、若者ばかりで『SEED』に登場したザフトを思い出させる。

 そんなオルフェやブラックナイツが、キラたちの仲間として共闘する展開になるとは思えないという想像が、ストーリーの中で確信に変わっていった先で起こるとてつもない事態が、『小説版 機動戦士ガンダムSEED FREEDOM 上』のクライマックスになっている。小説版から先に読む人は、キラやシン、そして不沈戦艦という異名をとるアークエンジェルの行方がどうなってしまったかが気になって、そのまま劇場版を見に行くか、3月26日発売の下巻を待ち遠しく思うことになるはずだ。

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