【連載】『ガンダムZZ』は“見なくていい”作品なのか?
『ガンダムZZ』エルピー・プルは“タイムカプセル”だった ニュータイプの描写に感じる時代の空気
『機動戦士ガンダム』シリーズにおいて、何かと不遇な『ガンダムZZ』。はたして本当に“見なくていい”作品なのか? 令和のいま、ミリタリー作品に詳しくプラモデルも愛好するライターのしげるが、一話ごとにじっくりレビューしていく。
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【連載第一回】第一話から「総集編」の不穏な幕開け
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第18話 ハマーンの黒い影
[あらすじ]
アクシズへの帰還を果たしたグレミーは、指揮官であるハマーンへ報告を行っていた。ハマーンは、ティターンズが全滅しエゥーゴもダメージを負った現在のタイミングを狙い、ハマーン自ら地球への侵攻作戦を実行することを明かす。侵攻の際には入手したサイコガンダムの投入も示唆するハマーンは、実戦ではサイコガンダムをグレミーに託すと告げた。
一方、ジュドーはダミーイン席に紛れてアクシズへの侵入に成功していた。前回キュベレイでZZと戦ったエルピー・プルは、ジュドーの接近を感知してはしゃぎ回る。
ビーチャとモンドの二人は、侵攻に備えて準備を進めるアクシズの中で下働きに追われていた。ゴットンらにおちょくられつつ重労働を課せられる生活に嫌気がさした二人は、リィナを救出してアーガマに戻ることを計画し、居住区へと逃げ出す。
ジュドーはアクシズの居住区を移動していたが、そこに現れたプルと出会う。ジュドーと一緒にいると言って聞かず、いきなりキスを迫るプル。ジュドーはプルを引き離そうとするが、リィナを見たというプルのペースに付き合うことになる。
その頃、リィナはグレミーの隙をつき、逃げ出すことに成功する。グレミーから逃げる途中でビーチャとモンドと合流したリィナを、グレミーは必死に追跡する。さらにビーチャは逃げながらバウを奪取。グレミーは三人を説得しようとするが、乗ってきた車を踏み潰される。そのまま偶然通りかかったゴットンたちに仕返しをしつつ、ビーチャたちはアクシズの外を目指す。
ジュドーはプルの指示に従い、リィナが捕えられていた宮殿に侵入していた。しかしプルは「今はここにいない」と言い、勝手に風呂に入りだす。宮殿の内部でネオジオン兵に追跡されたジュドーは逃げ回り、銃を構えたハマーンと邂逅を果たすことに。
そこにビーチャの操縦するバウが現れ、一瞬の隙をついてジュドーは逃げ出す。アクシズの外に出ていくミンドラにまだリィナが囚われていると勘違いしたジュドーは、ダミー隕石に隠してあったコアファイターに乗って追跡する。そこにプルが乗ったキュベレイが合流。リィナがまだアクシズにいることを告げ、「私と遊ぼう!」と言い出す。
驚愕するジュドーだが、そこにイーノらがコア・トップとコア・ベースで合流。ジュドーと遊ぶのを妨害されたプルは、キュベレイで2機を攻撃し始める。怒ったジュドーはZZガンダムに合体し、一撃でキュベレイのファンネルを一掃する。小さな子供までモビルスーツのパイロットになっている現実に心を痛めつつ、ジュドーはリィナのいるアクシズに再度侵入する。
タイムカプセルのようなキャラクター、エルピー・プル
前回の終盤で登場したエルピー・プルが、本格的にストーリーに登場するエピソード。エキセントリックな少女ながらニュータイプ能力を持ち、天真爛漫で風呂好きで他人との距離感がすごく近くて実はクローン人間の素体……と、属性の塊のようなキャラクターである。
正直、2023年に見るにはプルのテイストはややキツい。活発でうつり気な子供であることはわかるのだが、キャラクター性を誇張する文法が80年代のそれに則っており、現在の目で見ると「これはまいったな……」となってしまう部分が多いように思う。やたらと風呂に入るなど、今よりもずっと未整理で混沌としていた「(80年代でいう)ロリコン」文化の影響が如実に感じられる点も、プルというキャラクターの特徴だろう。
もっとも、キャラクターから感じられるキツさは別にプルに限ったことではないし、そもそも『ZZ』という作品のノリそのものが80年代的である。後出しで作品にケチをつけたところでどうしようもない。それよりもプルというキャラクターに、この時代のテイストが整理されないまま濃縮されていることの方が、今となっては貴重に思う。当時のマニアの「萌え」と手癖が詰め込まれた、まるでタイムカプセルのようなキャラクターがエルピー・プルなのだ。
プルのキャラクター性のキツさはよく知られた点ではあるのだが、むしろ今回でギョッとしたのが「唐突に挟まれる、ニュータイプが何かを感知したシーン」である。『機動戦士ガンダム』では、アムロがニュータイプとして覚醒してくるにつれて感覚が研ぎ澄まされていき、常人とは異なる領域に踏み込んでいく過程が段階的に描写されていた。だから順を追って見ていけば、「あ、アムロがまた普通じゃない状態になっているな」という点が理解できた。
が、『ZZ』ではこのエピソードでいきなりニュータイプ同士が感応しあってしまう。休んでいるハマーンの背後に唐突に宇宙の絵がボヤ〜と浮かび、「何かニュータイプっぽいやつが近づいているな」ということを瞬時に察知するのである。ジュドーと遊ぶのを邪魔されたプルからはオレンジ色の波動みたいなのが出てくるし、ジュドーはハマーンと対峙した際に化け物っぽいビジョンを見るし、けっこうやりたい放題である。
『ZZ』では、今回に至るまでエキセントリックなニュータイプ描写は控えられてきた。ジュドーがニュータイプではないかという指摘は為されてきたし、ジュドー自身も何かしら超自然的な感覚で何かを感知しているようなシーンはあったが、総じてこれまでの『ZZ』では、ニュータイプに関する描写は抑えめだったのである。
それが今回、なんだかいきなりフルスロットルである。特に説明もなくハマーンの前にいきなり化け物っぽいビジョンが浮かび上がり、プルはジュドーの接近を簡単に感知する。この「前のガンダム二本でやってるからね、詳しい説明はしませんよ。これはこういうもんなんで」という態度が許されたのは、当時の時代状況もあるのではないかと思う。