ラブライブ!、プリキュア手がけるアニメーター・斎藤敦史 キャラを魅力的にするデザイン論

斎藤敦史に聞く魅力的キャラのデザイン論

■今だから語れる京アニ時代の秘話

――いえいえ、どんなことはないと思いますけれど(笑)。ところで、京アニの中で影響を受けたアニメーターはいらっしゃいますか。

斎藤:初めて入った会社なので、木上益治さんをはじめ、関わった全ての人に影響を受けたと思います。僕が『けいおん!』の原画をやっていたときに西屋太志さんが作画監督をやってくれていて、退社後もよく交流していました。それが後で『聲の形』に参加することにつながりました。

――在籍中に受けた、印象に残っているアドバイスなどはありますか。

斎藤:確か、動画検査をやっていた中峰ちとせさんがおっしゃっていたと思うのですが、「絵を見られるのを恥ずかしい」と言っていた人に対し、「これから全世界の人に見られるのに、恥ずかしいとか言っていたらダメだぞ」と声をかけていたのが印象に残っています。あとは、どなたが言っていたか記憶があやふやですが、「役割が違うだけで役職には上下がない」という言葉もずっと心に残っていています。つまり、「原画に上がる、という表現をするな」と。動画は決して下の役職ではなく、キャラクターデザイナーや作画監督などと同列であり、どっちが偉いとかは無いという考えですね。

――素晴らしい言葉ですね。

斎藤:そうなんです。京アニでは仕事に向き合うための意識を学びましたね。自分自身もっと実践していきたいと思っていて、だから私は「先生」と呼ばれたくないんです。あくまでも「先生」という上の立場ではなく、自分はどこにでもいる普通の人だという感覚でいたいので(笑)。

――失礼しました。これからは斎藤さんと呼ばせていただきます。さて、斎藤さんは京アニに2年ほど在籍したのち、退職されていますね。

斎藤:京アニを辞めたのは前向きな理由も大きいです。基本的には京アニの仕事に専念していくことになるので、外の仕事を受けることはできないわけです。だんだん外部の、特に東京の仕事もしてみたいと、欲が出てきてしまったんですよ(笑)。

■キャラクターデザイナーに抜擢

第3期の放映が決まっている『ラブライブ!スーパースター!!』も斎藤がキャラクターデザインを担当。画像は『ラブライブ!スーパースター!! FIRST FAN BOOK』(LoveLive!Days編集部/編集、KADOKAWA/刊)。

――斎藤さんは着実に実績を重ねてキャラクターデザインに抜擢されるようになりました。キャラデザに関する考え方や、こだわりはありますか。

斎藤:原画の仕事が長かったので、キャラデザはできる限りアニメーターが描きやすいものにしたいとは思っています。線を一本、なぜそこに入れたのか説明できるような絵が描きたいですね。一枚絵のイラストとは違って動かすことを意識し、動きの邪魔になるものは、極力排除したいというか。でも、そういった点は僕だけの意志で決まるわけではなく、発注の段階から線を少なく動かしやすくしてほしいとは言われるんですよね。最近は業界の人手不足が極まっているので、様々な事情があるのかもしれません。

――『ラブライブ!スーパースター!!』のデザインを初めて見たときを覚えているのですが、従来の室田雄平さんが築いてきたシリーズの雰囲気を活かしつつ、斎藤さん流の新しいエッセンスが入っているなと感じました。

斎藤:『ラブライブ!スーパースター!!』は室田雄平さんの原案が最初にありました。室田さんの絵柄を尊重しつつ、より描きやすくするために線を少なくしたいというオーダーがあって、バランスを取ろうとした結果、今のデザインになりました。僕は、中間管理職とでもいうのか(笑)、人から「バランスを取るのがうまい」と言われることもあります。ある程度の約束や決まりを守りつつ、自分の個性を出していくのが僕のデザインのやり方です。

――デザインをシンプルにしていく作業は、口で言うのは簡単ですが、いざ始めると骨が折れますよね。

斎藤:線が多いと原画担当がしんどいというのはわかっているので、できれば減らしたい。でも、シンプルにしすぎると華やかさが無くなるし、パっと見た時の線の情報量が弱くなるので、難しいんですよ。例えば、室田さんの原案では制服のスカートにプリーツが結構多かったり、影やハイライトが繊細だったりといった特徴があったので、そこは自分のやりたい方向や線数とのバランスを取りました。キャラを印象付ける目と髪の情報量は保持したいというオーダーがあったので、そこは維持しつつ、情報の抜き差しをしていきました。

■シンプルな中にどう情報を盛り込むか

――斎藤さんの絵は構図も印象に残ります。僕が好きなのは『ラブライブ!スーパースター!!』の声優ユニット、Liella!の2ndライブツアーの絵で、傑作だと思います。

斎藤:もともと一枚絵を描くことに苦手意識があるのですが、いざ描き始めるときは時間軸を考えるようにしています。アニメーションの中では強制的に時間が流れますし、漫画もページが進むと時間が流れますよね。でも、イラストは1枚なのです。その中にも僕は前後の時間を盛り込んで、描かれたキャラクターがこれまでどんなやりとりをしてきたのか…… と、枠外を想像できるような内容を描くことが多いです。

――確かに、背景にある小物などを見ると、Liella!が歩んできた歴史がわかりますね。改めて、作品のエッセンスが凝縮された素晴らしいイラストだと感じます。

斎藤:ありがとうございます。僕はシンプルな絵を好みつつ、動きの方に重点を置いた絵を描いていたので、キャラクターを描くのに不向きな人と周りからそういわれていたんです(笑)。昔とあるプロデューサーさんにも、キャラデザの方向ではないですよねと言われていました。そんな僕がいろいろなデザインをやっているのは、自分でも不思議だなと思うことがあります。

――斎藤さんがデザインされた『ひろがるスカイ!プリキュア』のデザインは、前作と比べるとだいぶすっきりしている印象を受けます。

斎藤:『ひろがるスカイ!プリキュア』は、線は少なくしたいけれど、見栄えの華やかさは過去の作品と見劣りしないようにしてほしいなどの要望をいただきました。既にお話したように、ずっと近くで見られるグッズになることを想定すると、シンプルにしすぎるとぱっと見のインパクトが弱くなってしまう気がするんです。その中間を縫って、最終形にもっていくのは大変でしたね。漫画などの原作がない、ゼロイチのコンテンツだったからこそ可能だったのだと思います。

――『ラブライブ!』と『プリキュア』では対象年齢が違うわけですが、デザインの描き分けはどのようにしていますか。

斎藤:『プリキュア』は就学前の子どもが視聴者のメインなので、目などを視認しやすく大きめにして、身体から露骨なセクシーさは排除する方向にしました。でも、僕にとってはもともとの絵柄に近いので、それはありがたかったですね。キュアスカイも肌の露出が多かったりはしますが、足を細くしたりとか、よりデザイン的で記号的な絵にしようとしました。一方、『ラブライブ!』の方はシリーズとしてファンの方々がイメージする絵があると思うので、パーツなどでもその点のこだわりを拾っていっています。

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