「文学フリマ」東京ビッグサイト開催で注目 出版不況の中で「同人誌」人気の理由は?

「文学フリマ」で注目、同人誌の現在

 同人誌やZINEをはじめとした文学作品の即売会「文学フリマ」。昨年は来場者数が過去最多で1万2000人を超え、今年は国内最大級の展示場・東京ビッグサイトで開催を予定するなど、大きな盛り上がりを見せている。さらにそうした東京会場の他にも、大阪、京都、福岡、札幌、広島などの各地で開催し、全国の文学ファンたちの心を惹きつけている。なぜ、ここまで注目を集めているのか。文学フリマ事務局代表・望月倫彦氏にその背景を考察してもらった。(編集部)

 誰もがスマホを持ち、ウェブやデジタルで情報を摂取する今の時代。なぜ、自分たちでわざわざ手間をかけて制作する同人誌やZINEが注目されているのだろう。

 「文学フリマを長年運営する中で感じるのは、年齢層が幅広いことです。アンケート集計を見ても、高齢化していません。常に新しい世代から紙の本で何か作りたいという需要をずっと感じてきました。今はブログやSNSで誰もが自分の文章を抵抗なく発表しています。そこから一歩進むだけで、自分の本を作ってみようとなりやすい状況なんです。

 文学フリマからわかりやすい成功例が世に出たことも大きいでしょう。例えば、note記事などで話題となった岸田奈美さんも参加していますし、こだまさんは元々爪切男さんらと同人誌を出していて、私小説『夫のちんぽが入らない』は文学フリマで話題になったことから、商業デビューしました。純文学の世界でも、高瀬隼子さんは10年以上前から参加されていて、後に新人賞を取ってデビューし芥川賞を受賞しました。最近話題の俳句・短歌系もそうで、「胎動短歌」のように文学フリマで行列を作ったことで注目を集める事例もあります。有名な作家が文学フリマに参加するという順番ではなく、文学フリマの参加者が後に商業出版の世界で活躍する。そうした成功例を見て、自分も参加してみようと思う人が多いのだと思います」

 同人誌やZINEなどの紙媒体の魅力はどこにあるのだろう。

 「情報として見れば、電子でも本でも変わらないかもしれません。しかし、作品として鑑賞するときに、本がどういう体裁で作られているかは重要ですよね。どんな装丁なのか、どのように文を改行しているのかなどです。パソコンの画面でモナリザを見るのと、ルーヴル美術館に行って見るのとでは、等価値の体験とは呼べません。電子が駄目だとは言いませんが、紙には紙独自の体験があるはずです。

 アナログレコードの再評価の流れとも似ています。ネットに信用がなくなってしまっていることもあるのでしょう。SNSにしても、Xなのかツイッターなのか、どちらで呼べばいいのかわからない状況がもう駄目じゃないですか(笑)。そうした中で、アナログ的なカルチャーを見直そうという動きがある。

 本のいいところは、レコードと違ってプレーヤーがなくても読めることです。識字率の高い日本では、ほとんどの人が買ってすぐに読むことができる。あとは作りやすさもあるでしょう。凝った本を作るならば技術もお金も必要ですが、普通に冊子を作るレベルであれば、WordやPDFのデータを印刷所に送って入稿することもできます」

 商業出版やウェブ発信において、書き手はただ文章を書けばいい。しかし、いざ自分で同人誌を作るとなると、執筆の他にも編集、デザイン、営業などのさまざまな観点が必要となってくる。特に印刷して本を作る過程にはハードルを感じる人は多そうだが、昨今は同人誌印刷所のサービスが充実してきたという。

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