ライターが選んだ「2023年コミックBEST3」島田一志編 藤田和日郎の傑作伝記アクション『黒博物館』が完結
2023年に読んだ漫画の中で、個人的に面白いと思ったのは以下の3作であった。
1位『The JOJOLands』
荒木飛呂彦(集英社)
2位『薩摩転生~世に万葉の丸十字が咲くなり~』
内富拓地/原案・ほうこうおんち(小学館)
3位『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』
藤田和日郎(講談社)
『ジョジョ』第9部の主人公はヴィラン(悪役)
まずは荒木飛呂彦の『The JOJOLands』。いわずと知れた『ジョジョの奇妙な冒険』の第9部にあたる作品だが、今回の物語の舞台はハワイ――主人公は、ジョディオ・ジョースターという名の少年だ。
「これは、ひとりの少年が亜熱帯の島々で大富豪になっていく物語」というナレーションで始まる本作は、もちろんただのサクセス・ストーリーではない。物語の序盤においては、ジョディオは仲間たちとともに複数の違法行為に手を染めている。つまり、本作の主人公は正義のヒーローではなく、ヴィラン(悪党)として描かれているのだ。
むろん、過去の「ジョジョ」シリーズにおいても、イタリアのギャングの世界でのし上がっていったジョルノ・ジョバァーナというダーク・ヒーローがいた。じっさい、そのジョルノを主人公とした第5部「黄金の風」と、今回の『The JOJOLands』は合わせ鏡のような物語ではある。
しかし、明らかにジョディオの方がジョルノよりも数段上の「ワル」として設定されており(たとえば、「薬物」に対する両者の考えを比べてみてもそれは明らかである)、そのジョディオが彼なりの正義(世間一般で考えられている正義でなくてもいい)に目覚めたとき、物語は大きく動き出すだろう。
ジョディオはいう。「仕組み」(メカニズム)とは、「奪われたり崩れたりもしない、富が流れ込んで来るこの世の理(ことわり)」なのだと。
この言葉からもわかるとおり、彼が生きていく上で最も重視しているのは「仕組み」(=この世の理)であり、それは、歴代の「ジョジョ」たちが命を賭して抗い、あるいは、身を委ねてきた「運命」と同義かもしれない。
いずれにせよ、(多少は社会の裏側に通じているとはいえ)未熟な少年にすぎないジョディオはまだ、この世の本当の「仕組み」を知らない。だが、いつの日かそれを完全に理解したとき、彼は「大富豪」という名の“何か”になるのだろう。そしてそれは、かつてジョルノ・ジョバァーナが、ギャングの世界の頂点に立ったときになった“何か”と同じであってほしいと私は思う。
“戦国最強”島津軍VSローマ軍!?
第2位には、内富拓地の『薩摩転生~世に万葉の丸十字が咲くなり~』を選んだ。「サンデーうぇぶり」で10月から連載が始まったばかりの本作は、ほうこうおんちの小説(『薩摩転生~サツマン朝東ローマ帝国爆誕~』)のコミカライズ作品だが、これがなんというか、第1話から圧倒的な筆力で、読み手を荒唐無稽な世界にグイグイと引っぱり込んでくれる意欲作なのだ。
物語は、西暦1586年、九州統一戦争で豊臣軍に追いつめられていた島津軍が、火山の大噴火とともに忽然と姿を消してしまったことで幕を開ける。「戦国最強」とも謳われた彼らが「転生」したのは、なんと約1300年前の西アジア――そこでは、ローマの“英雄”プロブス将軍が、パルミラ王国攻略のため、進軍しているところだった(むろん、いきなり鉢合わせした両軍は、わけがわからないまま交戦する)。
ツッコミどころの多い設定ともいえるが、その後の展開は、四の五のいわずにじっさいに読んでいただきたい。読めば、そして、あなたがバトル漫画好きならば、本当のエンターテインメントとはこういうものだったということに、改めて気づかされるだろう。