ライターが選ぶ「2023年に読んだ漫画BEST5」もり氏編 最も笑った『この復讐にギャルはいらない』

ライターが選ぶ「2023年に読んだ漫画BEST5」もり氏編

 2023年も漫画に癒され漫画に考えさせられる1年だった。この1年を振り返って、個人的に印象深かった5作品をピックアップしていきたい。(もり氏)

1.『この復讐にギャルはいらない』まの瀬
2.『霧尾ファンクラブ』地球のお魚ぽんちゃん
3.『あくたの死に際』竹屋まりこ
4.『8月31日のロングサマー』伊藤一角
5.『環と周』よしながふみ

『この復讐にギャルはいらない』まの瀬

 両親を殺し屋に殺害され、自身も殺し屋ファミリーに拾われ殺し屋として生きてきた橿原ノゾミ。組織を抜け出し普通の高校生として生活を始めたのだが、ひょんなことから不良に絡まれていたクラスメートであり陽キャ中の陽キャギャル新宮さんを助けたことがきっかけで、そのまま2人でお茶をしばくことに。

 コミュ力抜群で橿原にも気兼ねなく笑顔を向けてくれる新宮さんに一瞬舞い上がる橿原だったが、クラスのカースト最上位である新宮さんが陰キャ中の陰キャである自分に理由もなく優しくしてくれる筈などない、もしや抜けた殺し屋ファミリーが差し向けた刺客なのではないかと壮大な勘違いをしたまま物語は進んでいく。

 ズレ漫才のような心地良さを感じる勘違いの連続、間違いなく2023年に1番笑わせてもらった作品だ。さらに本作の特徴として、往年の名作のパロディー描写が多数登場し、読み進める度にニヤニヤが止まらない。そして度々登場するコ○ンのパロディー。これはもしや橿原が抜け出したファミリーは黒の組織なのではないかとすら想像してしまう。

 オタクに優しいギャルは存在しないという宇宙規模の定説を覆す可能性は果たしてあるのか。陰キャ界隈に属する筆者としては、物語の行く末をしっかりと見届けたい所存だ。

『霧尾ファンクラブ』地球のおさかなぽんちゃん

 クラスメートの霧尾くんのことが大好きな女子高生、三好藍美と染谷波の2人。霧尾くんへの愛が溢れ過ぎて止まらない2人が繰り出す妄想の勢いは留まることを知らず、若干の(時には相当量の)気持ち悪さをはらんでいるところがなんともリアルである。

 ともすると恋のライバルといった構図になりがちの2人の関係性が、タイトルの通りファンクラブの会員のように共通の「推し」としてその存在を崇める様は微笑ましくも感じる。そしてやはり若干の気持ち悪さを感じるのである。

 漫画やドラマの世界では人を好きになることを美しく描かれがちではあるが、この作品からは「霧尾くんとwifiで繋がりたい」「霧尾くんのことが紀元前から好き」「霧尾くんの涙を舐めたいと思った」といった、心の底からの剥き出しの感情がダイレクトに読者に伝わってくることそれ自体が最高であるし、ここまで剥き出しにしなくても良かったのではと少し心配になってしまうところもまた良きである。

『あくたの死に際』竹屋まりこ

 元文芸部部長、黒田マコト31歳。順風満帆に会社員生活を送るも、ある日突然会社に行くことができなくなってしまう。メンタルを病んでしまった黒田が道端で偶然再会したのは文芸部時代の後輩、黄泉野。現在は売れっ子の小説家として活躍している。

 黄泉野にその才能を評価されるも、自分を信じ切ることができない黒田は何かと理由をつけて小説と向き合うことを拒否するが、やがて黄泉野の言葉を受け、自分の真実の気持ちを吐露し再び小説を書き始める。

 本作品からは一度は夢を諦めた人間が、再び挑戦しようとする様がとにかくリアルに描かれている。それは決して格好良いものではなく、むしろ泥臭く、陰鬱とした負のエネルギーすら端々から感じられるほど、黒田の内面が見事に描かれている。成功者への嫉妬、ごく一般的な幸せと呼ばれているそれらを手放してまで手に入れたい欲求。人の「業」というものが炙り出されるような描写に、ありふれた成り上がりモノとは一線を画す面白さがある。

 黒田のように非凡な才能を持ちながら、その才能を信じることができずに道半ばで折れた人間は数知れないだろう。そんな一度諦めた人間が再び立ち上がる姿はとてつもなく熱い。読んでいて焼かれそうな気持ちになる作品に出会うことは多くない。本作はそんな稀有な感情を抱かせてくれるだけの力がある。

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