OKAMOTO’Sオカモトショウ連載『月刊オカモトショウ』
オカモトショウ「アンデラがある限り、ジャンプは大丈夫」 『アンデッドアンラック』が受け継ぐ少年漫画の遺伝子
ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。今回取り上げるのは、『アンデッドアンラック』(戸塚慶文)。「週刊少年ジャンプの王道DNAを引き継ぐマンガだと思っています」(オカモトショウ)と評する“アンデラ”の魅力とは? アニメ『アンデッドアンラック』新シリーズのエンディングテーマ「この愛に敵うもんはない」(OKAMOTO’S)についても聞きました!
『アンデラ』に感じる「少年ジャンプ」作品のDNA
——今回紹介していただくのは『アンデッドアンラック』。2020年から「週刊少年ジャンプ」で連載されている作品ですが、アニメ版の新クールのエンディングテーマ(「この愛に敵うもんはない」)をOKAMOTO’Sが手がけていることも話題を集めています。
ありがとうございます! エンディングテーマが決まったから紹介するわけではなくて、連載が始まったときからずっと読んでいたし、1年前くらいからの展開がとにかく胸熱すぎて。そろそろ取り上げたいなと思っていたところに曲のオファーをいただいたという感じなんですよね。連載を追いかけている人だったらわかってくれると思いますが、とにかく大好きなマンガです。ストーリーをざっくり説明すると、“否定者”と呼ばれるキャラクターたちが登場するんですよ。
——特定の“理(ことわり)”を否定することで超人的な能力を得たキャラクターですね。
否定者たちが作っているユニオンという組織があって、“理”を強いる神を倒すことを目的にしているんです。主人公は二人いて、一人はアンディ。死を否定して、死ぬことができない(UNDEAD/アンデッド)否定者です。もう一人が風子で、触れた人の運を否定して、不運(UNLUCK/アンラック)をもたらす能力を持っている。この二人が主人公だから『アンデッドアンラック』なんです。いろんな魅力があるんだけど、個人的には少年漫画の王道、特に「少年ジャンプ」作品のDNAを色濃く持ったマンガじゃないかなと思っていて。いいところを受け継ぎながら、そのうえでアップデートしているというか。少年漫画の王道という意味では、たとえば主人公2人の関係は『うしおととら』に通じるものがないですか?
——呪いのような能力を持った“うしお”と圧倒的な強さを備えた“とら”は、確かに風子とアンディの関係性を想起させますね。
そうそう。世界中を旅しながらクエストをクリアしていくというストーリーは『HUNTER×HUNTER』だし、アンディが頭に刺さっているカードを抜くことで戦闘力が上がった時の見た目が『ドラゴンボール』のスーパーサイヤ人みたいだなと。“もう一人の人格が自分のなかにいる”というのは『遊戯王』だったり。
——なるほど。作者の戸塚慶文さんは1989年生まれで、ショウさんと同世代。子どもの頃から少年ジャンプが好きで、インタビュー記事では『HUNTER×HUNTER』や『ドラゴンボール』からの影響に言及しています。
世代が近くて、読んできたものが同じだから“わかる”感じもあるんでしょうね。このマンガがすごいのは、何かを真似したり、「この作家のフォロワーなんだな」という特定の作品に影響されている感じが全然しないところなんですよ。ご本人のDNAレベルまで落とし込んだうえでミックスしているし、少年ジャンプのいいところを下の世代にも伝えたいんじゃないかなと。少年漫画らしい痛快さや勢いもあって、絵柄もオリジナル。今の子どもたちにとっての『ドラゴンボール』は“アンデラ”かもしれないですね。あとラブコメの要素もあるんですよ。
——風子とアンディの関係、確かにラブコメ感がありますね!
しかも少年マンガにおけるラブコメの取り入れ方がすごく新しいんです。風子とアンディは明らかに両想いなんだけど、2人とも思春期みたいな照れ方をしていて(笑)、恋愛には発展しない。「これ、もしかして今までの王道バトルマンガに足りない部分だったんじゃない?」と思います。
——微笑ましくてホッコリするし、ストーリーのジャマもしないという。
風子が(主人公が)恋するために用意されたキャラクターではないのも大きいと思いますね。ヒロインだけどヒロインではないというか、アンディーと一緒に戦うバディでもあるので。しかも風子はストーリーのキモになっているんですよ。"ループ"という現象があって、別の地球にワープするんですけど、色々あって風子がループする前の世界で不幸な想いをしたみんなを救っていくんです。"ループ"という、これまで様々な作品で使われてきた舞台装置を驚きやオチのためでなく、割と初っ端から種明かししつつストーリーに組み込むことで胸熱な展開になるっていう。すごい腕前だと思いますよ。
——ループという仕掛けを取り入れることで、マンガ全体のスケールが上がっている。
おそらくハナからそこを目指していたんだと思います。“理”が後からどんどん加えられて、ルールが変更されていくんですよ。たとえば使う言語が分かれたり、疫病が流行ったり。現実では当たり前のことだったりするんですけど、マンガのなかでは不条理なルールとして描かれているのも面白くて。そこはSF好きとしてもグッとくる部分ですね。あと、最初ほうから伏線が引かれているんですよ、じつは。風子が“月の周りに星がある”という絵を描くシーンがあるんですけど、そのエピソードも、クエストが終わって円卓にみんなが揃った時に「なるほど、そういうことだったのか」とつながってくるんです。単行本で最初から読み直してみると、最初に読んだときには気づかなかった仕掛けがいろいろな場所にある。何気ないセリフや挙動もちゃんと回収されるから、やっぱり最初から計画的に書かれているんだと思いますね。
——作者の戸塚さんは24歳のときに読み切りが掲載され、6年後に『アンデッドアンラック』の連載がスタート。その間、週刊少年ジャンプの人気漫画の傾向を分析したそうです。
少年ジャンプを相当研究しているんだろうなと思うし、とにかく王道の少年漫画が好きな方ですよね。この連載でもよく話していますけど、今求められているのはどちらかというとダークヒーローだと思うんですよ。『チェンソーマン』や『呪術廻戦』もそうですけど、ダークヒーローが活躍する作品が大ヒットして、読者もマンガ家も編集者もそっちの方向に寄っている感じがあるんだけど、『アンデッドアンラック』はダークでグロな側面も持ちつつ、核の部分ではより王道を追求している。この言い方が合ってるかわからないですけど、今のジャンプにとって最後の良心みたいな作品じゃないかなと。あと、“アンデラ”が好きな少年少女のみなさんはきっと『HUNTER×HUTNER』や『ドラゴンボール』も楽しめると思うんですよ。
——ルーツを遡る楽しさですね。
そうですね。それまでになかった全く新しいスタイルの漫画を生み出すことも大事だし、素晴らしいことなんだけど、しっかりルーツを感じられる作品も読みたいので。両方が必要なんだと思いますね。
——アンデラの今後の展開にも期待ですね!
さっきも言いましたけど、“ループ編”に入ってからの展開はさらに面白くなってますからね。ユニオンのメンバーの壮絶な過去にフォーカスが当たるので、けっこうシリアスな場面もあるんですけど、ところどころにホッコリするような日常もしっかり描かれているんですよ。色々あって、急に風子がラーメン対決をすることになったり(笑)。基本的には少年少女に向けられたマンガだと思うし、もしかしたら「ちらっと読んだだけど、そんなにハマらなかった」という人もいるかもしれないけど、ぜひ読んでみてください。「“アンデラ”がある限り、ジャンプは大丈夫」と言い切れるほどのおすすめ作品です!