鳥山明、1500万円で落札 サイン色紙市場が高騰中 背景にあるのは、海外人気の高まりとアナログ回帰?
■驚きの高額落札が相次ぐ、巨匠漫画家の色紙
漫画家・鳥山明が描いた『ドラゴンボール』の孫悟空のイラスト入りのサイン色紙が11月7日の「まんだらけオークション」に出品され、過去最高額の1,500万円で落札された。「まんだらけ」が扱った鳥山のサイン色紙は、9月7日に落札された960万円(題材は『Dr.スランプ』のアラレちゃんとガッちゃん)が最高額だったが、記録を大幅に更新。初の4桁超えとなった。
これまで同社が扱ったサイン色紙で、4桁超えをしたのは宮﨑駿のみであった。鳥山明がその仲間入りを果たし、その普遍的な人気が浮き彫りになった。まんだらけ会長の古川益蔵氏によれば、鳥山の人気は全世界的なもので、「ヨーロッパやアメリカ、中国、ロシア、中東、アフリカ、中南米など、世界中に均等にコレクターがいます」とのことである。
今年に入ってから、「まんだらけオークション」でこれまでの最高額を上回る高額落札が連発している。特に原画とセル画の勢いは天井知らずといったところだが、高騰する最たる要因が、海外勢が入札に参加していることである。芸能人やタレントのサインと異なり、漫画家のサインは絵が入るため、外国人の間では“絵画”であり、“美術品”と考えられることもあるという。熱心なコレクターは、自身の経営するホテルや会社のオフィスに色紙を飾るケースもあるそうだ。
■デジタルやAIの時代ゆえ、一点ものに注目が集まる
原画やセル画の“一点もの”としての価値が注目されるようになった点も、高額落札に影響しているだろう。大量生産できるデジタルやAIイラストと根本的に異なり、手描きの絵はこの世に唯一である。「好きな作家の一点ものを所有することは、ファンにとってはピカソやゴッホの絵を所有するようなもの」(古川会長)であり、コレクターの所有欲を満たすことも、人気を集める要因となっている。
また、CGなどのデジタルイラストが成熟し、クオリティの高い生成AIのイラストが話題になり、NFTによるアートの取引も行われている。そんな時代だからこそ、人の手によって描かれる絵に注目が集まるのも、必然の流れなのかもしれない。それはクォーツ腕時計が量産されたのちに、職人技で作られる機械式腕時計の人気が高まったのと同じ現象といえよう。
アニメーターが描いたレイアウト原画なども人気が高い。スタジオジブリの二木真希子が描いた『天空の城ラピュタ』のレイアウト原画だ。9月6日のオークションでは2,500万円で落札され、ちょっとした騒ぎになった。二木は動植物を描かせたら右に出る者がいないほど、スタジオジブリの熱心なファンなら誰もがその名を知るアニメーターだが、一般には決して知名度は高くない。そうしたクリエイターにも光が当たった点は画期的だし、もはやレイアウト原画が1枚の“絵画”として評価された結果といえるのではないか。
■投機目的ではなく、純粋に好きな作家の絵を買い求めたい
「まんだらけオークション」のカタログとなっているのが2ヶ月に1回発売されている『まんだらけZENBU』だが、最新号も注目の商品が目白押しとなっている。筆者が圧倒されたのは、『ベルセルク』の三浦建太郎や、『ゲゲゲの鬼太郎』の水木しげるの原画である。それぞれ、やはり1枚の美術品として鑑賞に堪えうる見事なものだ。『まんだらけZENBU』はオークションに参加しなくても、原画集、作品集として見ても楽しめる本である。
なお、筆者もこうした原画や色紙のコレクターである。好きな漫画家の一点ものを所有できる喜びは特別なものがあり、その魅力は様々なところで語ってきた。ただ、一部の投資家のように、漫画が好きでもない人が投機目的で購入しているのを見ると、若干複雑な気持ちになってしまう。投機熱が高まりすぎて、健全な市場が崩壊した例はこれまでも何度も見てきたし、ある界隈では現在進行形で起こっている。できることなら、作品に愛情を注げる人に所有してもらいたいものである。
【写真】3250万円で落札された宮崎駿の高額なサイン色紙など