私人逮捕系YouTuberは正義のヒーローではないーー弁護士が指摘する問題点
「煉獄コロアキ」こと杉田一明容疑者(40)が11月13日、名誉棄損容疑で警視庁に逮捕されたことを受けて、いわゆる“私人逮捕系YouTuber”が問題視されている。
私人逮捕系YouTuberは、一般人が犯罪現場に遭遇した場合、逮捕状がなくても現行犯逮捕することができるという法律に則ることで、痴漢やチケット転売などを行なっていると思われる相手を捕らえ、その一部始終をYouTubeなどで公開している。過激な動画ほど高い視聴者数となる傾向にあり、一部のYouTuberは度を超えた行為に及び、そうした行為を支持する声も少なからずある。
杉田一明容疑者は今年9月、都内の帝国劇場にいた18歳の女性を付け回して撮影し、「転売ヤー」「パパ活女子」などのテロップとともにその様子を動画投稿していたが、捜査関係者によると「女性が不正転売に関わった事実は確認されていない」という。
YouTuberによる私人逮捕は、どんな問題を生じうるのか。弁護士の小杉俊介氏に見解を聞いた。
「大原則として、逮捕は国家権力によって個人の自由を拘束するものですから要件は厳しく、刑事訴訟法に則って、警察が裁判所に請求して逮捕状の発布を受けた上で行うものです。現行犯逮捕の場合はたしかに私人逮捕が認められていますが、それは緊急を要する場合があり得るからであり、あくまでも例外です。私人逮捕系YouTuberの場合は、動画撮影を目的として自ら犯行現場を探しているわけで、法が想定している状況とは違います。今回の杉田一明容疑者のケースは、相手がチケット転売をしていると決めつけて動画撮影をしているわけですが、そもそも現行犯逮捕の要件を満たしていなかった、要はそもそも私人逮捕とは言えない状況だった可能性が高いように思えます」
私人逮捕系YouTuberには、万引きや痴漢などの犯行現場をおさえている者もいるが、現行犯とはいえ、そこにも問題は多いという。
「万引きや痴漢の場合、たしかに現行犯で私人逮捕するケースはありますが、逮捕というのは制裁ではなくあくまでも身柄をおさえるのが目的であって、法律上、すぐに警察に引き渡す必要があります。警察官もまずは任意同行を求めるのが通常で、現行犯逮捕に対しては相当に慎重です。私人逮捕系YouTuberの動画では、そのような慎重な姿勢はほぼ見られません。
また、被疑者を捕らえた後に携帯電話を出すよう強要したりもするケースもあるようですが、そんなことをする権利も当然ありません。逮捕には逮捕令状が必要であるのと同様、捜査には捜査令状が必要です。そして、私人にはそもそも捜査権限はありません」
私人逮捕とまではいかなくとも、かねてより路上喫煙者を無許可で撮影して動画サイトに投稿するなどの活動をしているYouTuberは多かった。撮影者側には正しいことをしているという意識があるのかもしれないが、相手に無許可で撮影すること自体にも、法的なリスクがあるという。