出版社は漫画に注力……でも、漫画家の収入が厳しくなっているのは本当か? 

  漫画家は一発当てると大きいと言われることがあるものの、実態は極めて不安定な職業である。漫画家は基本的にフリーランスであり、いつ仕事がなくなるのかわからないからだ。かつてヒットを出した連載作家であっても、人気が得られずに打ち切られてしまうと、仕事を一から探さなければならないのである。

  ただし、20年ほど前までなら、雑誌が数十万部、数百万部と刊行されて勢いがあったし、なにより単行本の初版の発行部数が多かった。大手であれば新人の最初の単行本でも3万部、5万部という設定は普通にあり、そのぶん印税が入ったので、仮に打ち切りに見舞われても、次の仕事を探すまでの間の生活費はそれなりに確保できた。

 現在は、単行本の初版が極めて低く抑えられている。それなりに名が知れた出版社であっても数千部が珍しくなく、3000部スタートという話も聞く。これでは、連載作家は生活が難しい。そもそも、連載に必要なアシスタントへの謝礼は漫画家が原稿料の中から捻出しなければならないため、原稿料だけでは生活が難しいことが多い。

電子書籍の台頭で赤字の補填が困難

  最近、「週刊少年ジャンプ」の連載の原稿料が話題になった。モノクロ1ページ1万8700円(税込)以上、カラー1ページ2万8050円(税込)以上、というものである。これは、「さすがジャンプ」と讃える漫画家がいたほど、業界内でも高水準と言っていい。

  連載作家であっても、原稿料は1ページ1万円以下というケースは普通に見られるためだ。仮に1ページ8000円とすれば、20ページを描けば、16万円である。この中からアシスタント代も捻出しなければならない。アシスタント代は1人あたり日当1万円と仮定すれば、週刊連載なら最低でも2~3人は雇う必要がある。

  売れっ子で忙しくなれば5人ほどアシスタントが在籍することも普通だ。これを3日間続けるだけで、単純計算でアシスタント代が15万円かかる。そこから諸経費を差し引くと、原稿料はほとんど手元に残らないのである。こうした原稿料の赤字を補填するのが、単行本の印税であった。

  長らく、漫画家は印税によって収益を上げるビジネスモデルであった。しかし、初版の印刷部数は抑えられることが多く、しかも電子書籍が台頭してきていることも漫画家にとってはダメージが大きいといわれる。紙の場合は印刷された部数が印税となる。しかし、電子書籍の場合はダウンロード数に応じて印税が入るのが一般的で、まとまった収入にならないのである。

  また、漫画がアニメ化になっただけでは、漫画家が儲かるわけではない。ライセンス使用料は漫画家の手元にはそれほど入らない。アニメは企業の取り分のほうが大きいのだ。漫画家は何で利益を上げるのかと言えば、アニメ化で話題になり、単行本の重版がかかり、印税が入ることで利益を得るのだ。こうした印税に依存する部分を変えていく必要があるのではないだろうか。

漫画家という職業を目指す人が多い理由

  にもかかわらず、なぜ漫画家という職業が多くの若者を引き付けるのだろうか。それは、漫画という創作がもつ、極めて珍しい性質があるように思う。漫画家・洋介犬が漫画家の周辺事情について描いた『#新人漫画家と編集者 SNSでバズ連発の漫画家が教えるヒット術』によると、「漫画に『絶対』なんてない」のだという。曰く、「『必勝のセオリー』なんてものはなく、誰も大ヒットすると思っていなかったマイナー路線がポンと覇権をとってしまったりする」ことは、ままあるのだ。

  洋介犬が指摘するように、漫画ほど「こうすれば確実にヒットする」という方程式が当てはまらない分野は珍しい。連載前からそれほど期待されず、「絶対に売れない」と言われていた作品が数百万部のヒットを飛ばすこともあれば、「絶対にヒットする」と言われていた作品の人気が伸びなかったりすることもある。それゆえ、「あの漫画がなぜ売れているのか、実は編集部もわかっていません」というパターンも少なくないという。

 漫画家は極めてギャンブル的な要素が強い仕事ともいえる。それは漫画家という職業の厳しさの象徴でもある一方で、たいへんに魅惑的な要素と考えることができる。洋介犬が漫画の魅力を「自分が今日思いついたアイデアで革命を起こせる」点にあると述べているが、こうした魅力があるこそ、漫画家を志す若者は今でも多いのだろう。

  だが、出版界がこうした若者たちの情熱を、搾取とまではいかないにせよ、巧みに利用して成長してきたのもまた事実である。今後は、時代に合った漫画家の待遇改善なども行っていく必要があるだろう。残念ながら漫画界は、未だに紙が主体だった頃に作られたルールに支配されている部分が多いためだ。電子書籍主体の時代に相応しい体制づくりが求められている。

昔の作品や知る人ぞ知る名作に光が当たる

  少々、暗い話題を書いてきたが、明るい話題も多い。電子書籍で昔の漫画が読めるようになり、若い読者を獲得しているのだ。特に、『静かなるドン』は電子書籍で注目されて売上が拡大し、近年、雑誌での続編の連載も始まった。今の時代の流行とは異なる絵柄も、かえって若い読者には新鮮に映るという意見もある。

  また、サブスクなどで昔のアニメを視聴できる機会が増え、やはり若いファンを獲得しているケースがある。『ドラゴンボール』『北斗の拳』『キン肉マン』などの名作が、相次いで新作のアニメ化が発表され、単行本が刊行され続けているのは、新しい読者が次々に生まれている影響も大きいのではないか。

  XなどのSNSの場で、編集者に見向きもされずに埋もれたままになっていた作品が発表され、反響を呼び、単行本化されるケースも増えた。漫画の発表のプラットフォームが増え、過去の作品が意外な形でスポットライトを浴びるようになったのも、近年の傾向である。こうした環境をうまく利用して作品のPRを行っていくことも、現代の出版社、そして漫画家には欠かせないといえるだろう。

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