味付けは塩のみ、白い麻婆豆腐とは? 町中華、ガチ中華の次に来る「家中華」を実食レビュー
もはや国民食と言えるほど、街のあちこちで見かける中華料理店。ローカライズされたメニューも楽しい町中華が暖簾をはためかせ、目抜き通りをゆけば上海・北京・広東・四川など地域色豊かな本格料理にありつける。現地仕様のガチ中華も勢力拡大中である。そんな今の日本でなかなか出会えないのが「中国の家のいつものごはん」だ。
はて、中国の家庭料理ってどんなものだろう?
その答えとなる78のレシピを、およそ三十年に渡り中国各地を食べ歩いてきた中華料理愛好家・酒徒氏が『あたらしい家中華』(マガジンハウス)にまとめた。
“僕が作っている料理は、中国の人ならわざわざ本にする必要もないと思うであろう、ありふれた家庭料理に過ぎない。だが、そういう料理が多くの人の興味を引いたのは、それだけ中国の家庭料理が日本ではまだ知られていないということだろう。”
未知の食べものや、いくらお金を払っても味わえないものほど心惹かれるのは食いしん坊の性。ワクワクしながら本書を開くと、お店ではお目にかかれない日常の料理がズラリと並ぶ。一発で読めない名前の料理はどれも目新しいのに、醤油・塩・酒・油・酢など身近な調味料と2種類ほどの食材で作れ、外国料理のハードルをぐんと下げる。一読して矢も盾もたまらず、家にある材料を引っ張り出して作った3品を紹介していこう。
香ばしい葱油がやみつき!映画“エブエブ”にも登場した混ぜそば「開洋葱油拌麺」
「開洋葱油拌麺」は、映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の序盤にも登場する家中華界のハリウッド・スター的麺料理だが、気取ったところはキアヌ・リーブス級に皆無である。作り方もシンプルで、小葱1束をカサカサになるまで素揚げしたら、干し海老を加えた醤油だれと茹でたての麺と共に皿に盛り付けて完成だ。
箸でたっぷりと麺を捉え、丼の底からワシャっと天地返しすると、湯気とともに焦がし葱の香りがふんわりと漂い、全体が背徳感たっぷりの真っ茶色に染まる。一気呵成にズバババーンと啜ると、訪れたことのないはずの桃源郷が目の前に広がってムハムハと笑みがこぼれる。油そばや混ぜそばが好きな人ならきっと、ひと口で多幸感に包まれるに違いない。レシピでは卵・かんすい不使用のストレート麺が推奨されていたため、市販のマルタイ棒ラーメン(麺にかんすいの表記がないもの)を用いた。一気に4〜5人分の葱油と醤油だれが作れるこのレシピ、一度作れば次からは麺を茹でるだけで興奮のるつぼを楽しめる。麺好きに強く推したい一品だ。
面倒な肉の細切り不要!ピーマンもザク切りであっという間に作れる「青椒肉片」
「肉片」は、中国語で「スライスした肉」の意味を持つ。つまりこれは、私たちが見慣れた細切りの世界の反対側にある、薄切りバージョンの裏チンジャオロースーとも言える。ひと口大にザク切りしたピーマンは油をまとって青く艶めき、食感はパキパキ。切り落とし肉に下味をつけてしまえば、仕上げは醤油と砂糖のみという簡潔さがいい。甘辛味がごはんにもおつまみにも合うことこの上なく、日本の家中華の新定番として断固支持したくなった。我が家では、お弁当の彩り部隊としても重宝している。