「誰も知らない感動の大奥を描きたかった」 『大奥の御幽筆』著者・菊川あすかインタビュー

『大奥の御幽筆』著者インタビュー

『大奥の御幽筆』の工夫

菊川あすか『大奥の御幽筆~あなたの想い届けます~』(ことのは文庫)

――最初の作品『~あなたの想い届けます~』の冒頭には、「長局の構造」と題された歴史復元画があって、なおかつ巻末には、歴史ライターの鷹橋忍さんによる「大奥の基礎知識」という解説が併録されているなど、大奥に馴染みのない方も入りやすい形になっているところも印象的でした。

菊川:私があたっていた資料の中にこの歴史復元画があったんです。大奥の平面図は結構あって、いくつか見たことがあったんですけど、立体的に描いたものはあまり見たことがなくて。編集担当に「この復元画がすごいわかりやすいので、参考にしながら書いています」と写真を撮って渡したら、たまたまその編集担当が以前に仕事をされたことのある歴史復元画家の方だったんです。本当に偶然なんですけど、すぐに連絡して使わせてもらえることになったという経緯があります。

 また、読みやすいものにすることはかなり意識したものの、それでも大奥という特殊な空間の話なので、副読本の代わりになるようなガイドが必要かなと思いました。そこで編集担当の知り合いだった歴史ライターの鷹橋忍さんに「大奥の基礎知識」という解説ページを書いてもらったんです。ことのは文庫では、ちょっと珍しい形になっていますが、大奥の知識がない人にとっても入りやすい本に仕上がったと思います。

――主人公を奥女中にしたのは何故でしょうか?

菊川:大奥というと、かつて私が観ていたフジテレビ版のドラマ『大奥』もそうでしたけど、すごく閉鎖された世界における女同士の権力争いみたいなドロドロとしたものを思い浮かべがちじゃないですか。実際、私もそういうものが好きでドラマを観ていたところがあるんですけれど(笑)。ただ、そういう作品は小説はもちろんドラマや映画にもすでにたくさんあります。また、史実をもとにして描くと、どうしても正室とか側室とかの話になってしまいます。そうではなく、これまでに書かれてこなかった大奥の話にしようと考えたとき、大奥に勤めることになったひとりの若い奥女中にスポットを当てたものを書こうと思いつきました。奥女中を主人公にすれば、史実にあまり引っ張られず、自由に書ける部分も多くなるかなと。

――『大奥の御幽筆』シリーズは、霊視の力を持つ奥女中・里沙が記憶を失った侍の亡霊・佐之介と共に、大奥に現れる亡霊たちの心残りを解き明かす……といった物語になっています。菊川さんが書かれてきた青春小説と共通したテイストもあるように感じました。

菊川:そうですね。青春小説では、私は一貫してやさしさとか人の絆をテーマにして書いてきました。読んだあとに、ちょっと心が温まるような物語を書きたいと思って小説家になったので、大奥を舞台にするにしても、やさしさとか人の絆をテーマにしたかったんです。

『大奥の御幽筆〜あなたの想い届けます〜』ことのは文庫公式PV

第二作目『~永遠に願う恋桜~』の読みどころ

菊川あすか『大奥の御幽筆~永遠に願う恋桜~』(ことのは文庫)

――改めて大奥について調べていくにあたって、新しい発見もあったのでは?

菊川:そうですね、色々と発見がありました。たとえば大奥で働いていた人たちの人数を改めて調べてみたところ、各役職の人数が思っていたよりも少なかったりとか。また、今回の『~永遠に願う恋桜~』には「お美津の方様」という人物が出てくるんですけど、この方が大奥に上がる経緯というのも史料を調べていて初めて知りました。そこから、今回の物語の大枠も出来上がりましたね。「もしかしたら、こういう話もあったんじゃないか」と想像を膨らませていった形です。

――今回の『~永遠に願う恋桜~』は、前作以上にラブストーリーの要素が強いように思いました。

菊川:そうですね。最初の作品は親子の愛というか、母と子の話だったんですけど、今回は恋人同士の話なので。次回作では、また違う感じにしたいと考えています。

――今回の作品には、新しく「謎の敵」みたいな存在も登場してきて、ちょっと驚きました。

菊川:そのキャラクターは編集担当のお気に入りなんですよ。「江戸時代と言えば、やっぱり謎の怪僧ですよね!」なんて言っていて(笑)。私自身は敵を描くことは当初、全然考えてなかったんですけど、いろいろと打ち合わせをしているうちに「それも面白いかも」と思うようになりました。考え始めたらどんどんそのキャラクターが膨らんでいったんです。このキャラクターの過去も色々と考えていて、ただの悪役では終わらないようにするつもりです。

――肝心の「佐之介」の過去が、なかなか明らかにならないですけど(笑)。

菊川:実はコンテストに応募するときから、この話は絶対長編にしようと思っていたんです。たとえコンテストに落ちたとしても、これは自分で書こうって。なので、コンテストに出したときから、佐之介の過去については中途半端な形で明らかにしないまま終わらせていました。ラストは実は最初に考えていて、今後少しずつ佐之介の過去が明らかになっていきます。

――まだまだ先は長そうですね。このシリーズは時代小説ではありつつも、探偵もののような謎解き要素もあり、怪奇要素もあり、里沙と佐之介の微妙な関係性もあり……さらには敵との対決も? といったように、さまざまな要素が含まれたシリーズになっています。ご自身では、どんなジャンルの小説になったと思いますか?

菊川:ジャンルについては自分ではわからないんですけど、やっぱり「感動」がいちばんの根幹にあると思います。「誰も知らない感動の大奥」みたいな感じが、いちばんしっくりきますね。

――これまでの菊川さんの小説がそうであったように、ある種の「せつなさ」も、このシリーズでは重要な要素のひとつになっているように思いました。

菊川:亡霊たちとの出会いというか、基本的にはいつかは絶対に別れなくてはいけない人たちとの出会いの話なので、そういう「せつなさ」は確かにあると思います。だから、私がこれまで書いてきた青春小説を読んでくださった若い世代の人たちにも、是非読んで欲しいですね。もちろん、時代小説が好きな方や、歴史好きな方にも楽しんでもらえる作品になっていると思います。


■書籍情報
『大奥の御幽筆~あなたの想い届けます~』
著者:菊川あすか
イラスト:春野薫久
価格:792円
発売日:2023年2月20日
レーベル:ことのは文庫

『大奥の御幽筆~永遠に願う恋桜~』
著者:菊川あすか
イラスト:春野薫久
価格:792円
発売日:2023年10月20日
レーベル:ことのは文庫

『大奥の御幽筆』特設サイト:https://kotonohabunko.jp/special/ohoku/

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