『はなものがたり』作者・schwinnに訊く、着想と思い 「多くの人が共感できる主人公を描きたかった」

『はなものがたり』schwinnインタビュー

 X(旧Twitter)で「おばあちゃんと化粧」をテーマにしたマンガがヒットし、2022年3月4日発売の『コミックフラッパー4月号』(KADOKAWA)で同マンガとなる『はなものがたり』の連載をしていたschwinn。2023年8月には完結となるコミック『はなものがたり3』を発売。schwinnにとって本作とはどのような作品だったのか。『はなものがたり』の作品への思いや着想など、話を聞いた。

幸せな女性とは何か

――schwinn先生はTwitterで最初『はなものがたり』を描かれましたね。そのきっかけを教えてください。

以前、小田急線の電車内で凄惨な事件がありましたよね、「幸せそうな女性を殺してやりたい」っていう動機の。それ以来犯人というよりも「幸せな女性とは」みたいなことに興味を持って。いつかそんな女性をテーマにした漫画を描きたいなと思っていたんです。だけど、女の人を描くと一言で言っても年齢やライフステージによっても違うし、要素が多すぎて難しいなって思っていたんです。

  ちょうどそんなふうに思っていた時に、化粧品屋さんのポスターがSNSでバズっていて。大阪にある文の里商店街のポスターだったと思います。おばあちゃんがお化粧をして笑っているんですけど、とっても魅力的なんです。そのX(旧Twitter)のリポストで「40歳以上のひとはこんなメイクをしたらみっともない」みたいなのも流れてきていたんです。それらが合体したことで『はなものがたり』の着想となっていきました。

――「お化粧」は『はなものがたり』の中で重要な要素となっていますね。加えて吉屋信子による小説『花物語』も欠かせない要素だと思いますが、吉屋作品との出合いを教えてください。

まず吉屋作品との出合う前に高校時代に遡ってお話ししますと、よしなが先生のBLを読んでいて、男女だけじゃない物語があることを知ったんですね。そこから大学生の頃に、クィア関連の小説や映画に興味がある時期があって。その歴史の一環で「エス」という言葉を知って。

――英語のシスターやフランス語のスールと言った「姉妹」をさす文化のことですよね。
ええ。そういう文学の流れがあったのか、ムーブメントがあったという流れで吉屋作品を読みましたね。たぶん『屋根裏の二処女』だったと思うんですけど、そのときはあまり魅力的には思えなかったんですね。

というのも、もともと好きな作家が北杜夫で、「どくとるマンボウ」シリーズや『楡家の人びと』をよく読んでいました。それに大学時代にレポートのテーマにしていたのは夏目漱石。自分の感情からちょっと一歩引くユーモアある作品が好きでした。北杜夫も夏目漱石も恥ずかしがり屋の人だったと思うんですけど、自分の恥ずかしい部分をユーモアで取り繕っているところに共感を覚えたんです。

  吉屋作品に関して言えば『はなものがたり』を描こうって思う直前ぐらいにいいなって思えてきました。私はずっと男性の方が多い職場で働いていて、ユーモアとか自分の感情を出さない方がカッコイイと思っていたので。だけど吉屋信子の作品には、女性の感情が会話でも、結構そのまま書いてあるんですね。当時はそういう「そのまま」のものを読むのがしんどかったと思うんです。

――はじめは「女性的」って言われるような物語や考え方に触れるのがつらかったという感じでしょうか?

多分そのような女性と私は違うみたいに思っていたんでしょうね。今はそこから離れて、割と世の中も変わってきた時に、吉屋さんの本を読み返して自分の書いた世界に重なるなと。そこから自分の感情を出していいんだと思えるようになりました。今では、昔の自分も肯定されているような気がします。女性の感情をかたちにすることに価値があるんだと思えてきました。

――『はなものがたり』は吉屋信子作品へのリスペクトであふれていると思います。吉屋作品の良い点と評価できない点がありましたら教えてください。

会話文はすごく好きですね、テンポがいいですし。「女性だから女性」って括っていなくて、芯がある。ちゃんと人間の感じがするのが魅力的ですね。女性が謎にミステリアスだったり、ファム・ファタールにされてしまうことがない。ちゃんと感情があってバイアスなく人物が描かれている点が好きです。ただ、読んだ作品の中で、ちょっと寂しいなって思うのが、ハッピーエンドで終わるものが少ないことですかね(笑)。仮に今の時代に生きていらっしゃったらすごくあっけらかんとしたハッピーエンドを書いてくださるんじゃないかなって思いますね。

――『はなものがたり』2巻では絶版状態の吉屋作品が出てきます。おすすめ作品があれば教えてください。

『女の友情』です。絶版状態ですが、吉屋信子全集には入っている作品です。『女の友情』は登場人物の初枝ちゃんが可愛いんです。まずはそれだけでも覚えて読んでもらえればと思います(笑)。それに『女の友情』は、小林秀雄がすごく怒った作品としても知られています。男性をそのまま書きすぎているというところに起こったのかなとは思うんですけど、私には、全然わからないんです。

  例えば男性がすぐにセックスでうやむやにしようとするとか、妊娠はさせるけれど優柔不断で結婚できなくて女性ひとりで産ませる男性が出てきたり。卑怯にも見えるしかっこ悪くも見えるけれど、悪人として描いているわけではなく、そのままの男性を書いている印象なんです。もしかすると昔の文学だったら男のひとに何か高尚な悩みとかをつけて書いたりする。でも、そうじゃないところが今読むと新しかったのかなとと思います。

――最後に読者の皆様にメッセージなどありましたらお願いします。

『はなものがたり』で登場するおばあちゃんのはな代さんには、非凡なスーパーパワーを秘めていて、何もかもすべて解決していくカッコイイ女、みたいな話にはしたくなかったんですね。世の中のほとんどの人って、そもそもそうじゃないですか。なんでもできるすごくカッコイイヒロインではないかもしれない。けれどそういうところにこそ物語を見いだしてもいいじゃないかと思ったんですね。はな代さんみたいにSNSとかもやっていないような人に「あ、自分と同じような人が描かれているマンガがあるな」って思ってもらえたら嬉しいですね。

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