『北斗の拳』誕生から40年、今も続くショック! 少年たちを戦慄させたケンシロウの強さ

『北斗の拳』今も続くショック!

 40年前、「週刊少年ジャンプ」の1983年第41号を開いた読者は、武論尊原作、原哲夫漫画による新作漫画『北斗の拳』に登場した主人公によってノックアウトされ、現在に至るまで、強いショックを身に覚え続けている。そして今回、40周年を記念して新アニメプロジェクト『北斗の拳 FIST OF THE NORTH STAR 』がスタートし、100周年まで続きそうな衝撃が放たれようとしている。『北斗の拳』は何がそれほどまでに凄く、そしてなぜ今も高い人気を保ち続けているのか?

 40年続くショックの始まりだった。『北斗の拳』という新作漫画を読み始めた瞬間、当時は未来だった199X年に文明が核戦争によって滅び、暴力がすべてという苛烈な世界で、陰惨な出来事が繰り返されているビジョンを突きつけられて恐怖した。

 ところが、非道な振る舞いを繰り広げていた悪党どもが、何者かによって始末されていた。それも、体が内部から吹き飛ぶような不思議な死に方で。いったい誰がやったのか?  いった何が起こっているのか? グッと引きつけられた興味が、登場したケンという男に向いた先で、何とも不思議な拳法が炸裂する。

 足で頭を打たれた悪党どもの頭が吹き飛び、威張っていたボスも指先で幾度となく貫かれた後、ケンの「お前はもう死んでいる」という言葉どおりに体が爆発四散する。荒廃した世界こそ映画『マッドマックス2』(1981年)を思い起こさせたが、格闘については過去に見たことのないビジョンを突きつけられて、これはとんでもない漫画が現れたと思わされた。

 新鋭の新作がことさら強く目立つほど、当時の「週刊少年ジャンプ」の連載陣が弱かった訳ではない。むしろ今も人気の漫画作品がズラリと並んでいた。ゆでたまご『キン肉マン』に北条司『キャッツアイ』、高橋陽一『キャプテン翼』、そして江口寿史『ストップ!!ひばりくん!』。さらに鳥山明『Dr.スランプ』や桂正和『ウィングマン』といったアニメ化作品が連載されていた。寺沢武一の『コブラ』が最終回を迎えて、マッチョなヒーローの時代も終わったと思えたほどだ。

 そこに登場した『北斗の拳』は、キャラクターもマッチョならストーリーも息が詰まりそうにヒリヒリとしていて、『キャプテン翼』のさわやかさとも、『キャッツアイ』のスタイリッシュさとも縁遠かった。『ウィングマン』や『ストップ!!ひばりくん!』のような少年の心をくすぐる甘さなど欠片もなかった。つまりは時流から外れていたとも言える。それが逆に目新しく移った。

 真の正義が圧倒的な力で目の前に立ちふさがる悪を次々と打ち倒していく。倒された悪は悪に相応しい悲惨な死に方をして退場していく。痛快だった。おまけに繰り出される拳法が謎めいていた。北斗神拳。一子相伝の暗殺拳。経絡秘孔を突くことで人体を思いどおりに操る。押せば健康になるツボがあるのなら、逆に体を壊すツボだってあるかもしれないという想像力を刺激され、初回にして一気に興味を持って行かれた。

 そうして掴んだ読者の興味を、『北斗の拳』は引っ張っては振り回し、煽りながらどこまでも連れて行った。これだけ強いケンことケンシロウの胸に北斗七星のような傷をつけた男がいる。いったいどれだけ強いのか。そんな男も北斗神拳とは対になる南斗聖拳の数ある流派のひとつを受け継いだだけで、他にもっと強い南斗の使い手たちがいる。そんな男たちをひとり、またひとりと倒していく旅と並行するように、同じ北斗神拳の中で後継者をめぐる争いが繰り広げられる。

 ジャギ。トキ。そしてラオウ。それぞれが様々な思惑を抱えてケンシロウと敵対し、あるいは味方になりながら拳を交えていった先で、南斗との戦いのクライマックスであり北斗における戦いのクライマックスを迎えてようやく終わったかと思われたケンシロウの旅に、さらに続きがあったと知った時の絶望と、そして次はどんな強敵が現れるのかといった待望の背反するような感情もまた、40年の間に他の漫画ではなかなか味わえなかったものだ。

 そこに至るまでのドラマも濃かった。南斗について言えば南斗水鳥拳の伝承者・レイとの出会いがあり、離別があって涙を誘った。その時に立ちふさがった南斗紅鶴拳の伝承者・ユダが見せた美への飽くなき感情が、レイへの愛憎入り交じった執着と重なっていたことが分かって、悪党の中にある人間味を感じた。

 南斗白鷺拳を使うシュウの盲目であるにも関わらず敵を圧倒する強さに惹かれた。そのシュウを非道な方法で葬った南斗鳳凰拳を一子相伝するサウザーの、ケンシロウをも凌駕する強さに戦慄させられた。そのサウザーが、「愛などいらぬ」と愛を否定しながらも愛に縛られて敗れていく儚さに瞑目した。事情も分からないままケンシロウに粉々にされていくザコキャラたちが可哀想になるくらい、伝承者たちにはそれぞれに強い信念があり、激しい思いがあるのだと分かって、ひとりひとりに感情移入させられた。

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