『スキップとローファー』から『かぐや様は告らせたい』まで、“文化祭編”が神なマンガを考察
9月~10月といえば文化祭シーズン。漫画において、文化祭の様子が描かれるいわゆる“文化祭編”は、物語が大きく動くケースが多いため神回として話題になることが多い。そこで今回は、マンガライター・ちゃんめいが厳選した文化祭編が魅力的な学園漫画を3作品を紹介していく。
『スキップとローファー』高松美咲
あぁ、これはかつての自分だ。そう思ってしまうほどに共感度MAXなキャラクターたちが登場するスクールコメディ『スキップとローファー』(高松美咲)。単行本4巻には、一冊まるっと文化祭編が収録されており、主人公・美津未が通う「つばめ西高校」の文化祭を、準備期間はもちろん、当日の様子までを圧倒的な解像度で描く。本作においての文化祭編は、“自己と他者理解の深まり”のようなものが一つのテーマとしてあるように思う。例えば、クラスの出し物である演劇ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」。志摩くんはロルフという役に幼き日の自分を重ね、自分が心の奥底に抱えるトラウマと対峙していく。
そして、高校の文化祭といえば、中学時代の友人や家族が遊びにくる......つまりいつもと同じようで、良くも悪くもどこか違うクラスメイトの一面を垣間見ることになる。志摩くんは、母親や幼馴染が遊びにきたことで、触れられたくない過去をクラスメイトに知られてしまうが、結果的にトラウマと決別し前を向く。また、誠の中学時代の友人が、容姿端麗な結月を目の前にしてどこか苦手意識を見せるシーンでは、少し前の自分もこうだった......と誠は過去を振り返りながらも、結月や美津未たちとの出会い、友情に改めて愛おさを感じる。
入学してからある程度同じ時を過ごしているのだから、相手のことは十分知っている。このクラスで自分がどういう人間なのかも知ってる。そんな“知っている”を根幹から覆すような出来事がこの文化祭編には詰まっている。そして、文化祭を通して経験する“自己と他者理解の深まり”を経て、相手はもちろん、自分のことがもっと好きになる.......そんな希望と多幸感に満ち溢れたエピソードとなっている。
『それでも歩は寄せてくる』山本崇一朗
高校の将棋部を舞台にしたラブコメディ『それでも歩は寄せてくる』(山本崇一朗)。将棋の初心者である部員・田中歩は、部長・八乙女うるしに恋心を寄せており、将棋でうるしに勝利したら告白すると心に決めている。ただ、歩は棋力は弱いものの、ナチュラルにうるしをドキッとさせる一言を放つ......つまり、自覚はないもののグイグイ攻めてくる歩の姿勢にうるしは“詰む”! とドキマギしてしまう。そんなむずキュンするような2人の攻防戦が魅力的な作品だ。基本的には、将棋部の部室や帰り道での様子をメインに描く本作だが、単行本3巻では学園ラブコメの醍醐味とでもいうべきか、当然2人の距離感が深まるのでは?! と思わず期待に胸を膨らませる文化祭編が収録されている。
ただ、『それでも歩は寄せてくる』の文化祭編は、一般的な学園ラブコメと一味違う。歩はうるしに将棋で勝ったら告白する! と決意を固めているため、当然告白なんて展開はない。しかも2人は学年も違うのだから、クラスの出し物などで互いに協力することもない。では何をするのか? と思いきや、2人は一緒に文化祭を回る.......つまり文化祭デートである。各クラスの出し物を2人で一緒に回り、2人で一緒にクレープを食べて、2人で一緒にただ校内を歩く。いつもの見慣れた校舎なのに“好きな人と2人”でいることで、こんなにも彩り鮮やかで新鮮な景色になるのか......! となんだか悶絶するようなキュンが溢れている。