大学生 × キャバ嬢 × ゲイバー店員、奇妙な三角関係の結末は? ラノベ出身作家が描く複雑な人間模様

深沢仁『眠れない夜に見る夢は』レビュー

 ライトノベル作家としてデビューした深沢仁は、若者向けのクライム・ノベルやファンタジーを執筆しながら、2019年の青春小説『この夏のこともどうせ忘れる』あたりから、作風を広げていった。そんな作者の最新刊『眠れない夜に見る夢は』は、大人になっても、さまざまな迷いの中にいる人々を描いた短篇集だ。

 冒頭の「なにも傷つけないように、おやすみ」は、深夜、主人公の紘一の暮らすアパートのチャイムが鳴らされる場面から始まる。ドアを開ければ、友人の智己の妻のナミが、赤ん坊のミイナを抱いて立っていた。どうやら、苛々して布団を蹴飛ばした智己に思うところがあり、紘一のところに逃げてきたらしい。二週間前に、ナミとも仲のよかった恋人のチカコと別れた紘一。ナミとミイナを自分の部屋に残して、詳しい話を聞こうと智己のところに行くのだった。

 作者は進行するストーリーの中に、巧みに情報を織り込み、登場人物の人間性や状況を露わにしていく。この手際が素晴らしい。主要人物である、紘一・智己・ナミ・チカコの関係は、どういうものなのか。ある程度、話が進むと、紘一と智己は同じ施設で育ち、中学の頃は互いに「死ねばいいのに」と思っていたことが分かる。しかし高校のときのある出来事で、同じような暴力衝動を持っていることを理解し、強い絆を感じるようになった。高校を卒業すると、互いを理解者兼ストッパーとして、なんとか大勢の人が当たり前に営む日常を手に入れようとする。その後、紘一はチカコと、智己はナミと恋人関係になる。そしてナミが妊娠すると、智己は紘一との同居を解消し、現在に至っている。

 とはいえ暴力衝動がなくなったわけではない。智己はナミに何度か手を上げたりしている。だから智己が布団を蹴ったとき、ナミは紘一を頼ったのだ。しかし紘一にだって問題はある。実はナミがやって来たとき、飲み屋で引っかけた女を連れ込んでいた。彼女を追い出す紘一の態度は、あまり宜しくない。さらにチカコが自分と別れた理由も分からないままでいる。

 紘一と智己は、互いを必要とする関係にあった。だが智己がナミと結婚し、チカコという子供を得たことで、二人の関係は変わる。しかし智己は、なかなか新たな環境に馴染めない。一方の紘一も、チカコと結婚するつもりだったが、理由不明の別れにより、普通の日常に至る道が見えなくなる。ストーリーは紘一たちの人生の一瞬を切り取っただけであり、彼らがこれからどうなるかは想像するしかない。それだけに、この世界の片隅で生きる彼らの未来が、幸せであることを祈ってしまうのだ。

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