『天国 ゴトウユキコ短編集』『十次と亞一』『夜さんの愛しの晩餐』……漫画ライター・ちゃんめい厳選 8月のおすすめ新刊漫画

ちゃんめい厳選! 2023年8月のおすすめ新刊漫画

『四畳半王妃~マリー・アントワネット転生王妃のやり直し~ 』漫画:花園あずき / 原作:96 助

 今や一大ジャンルとして人気を博している、異世界転生モノ。転生した世界観の作り込みや、転生後に与えられる能力など、異世界転生モノは設定が命と言っても過言ではないが、久々に設定大優勝!  と感じた作品。それが、『四畳半王妃~マリー・アントワネット転生王妃のやり直し~ 』だ。

 悲劇の王妃マリー・アントワネット。彼女は処刑される瞬間に、誰も自分を知らない世界でもう一度やり直したいと神に祈る。その結果、彼女は少女の姿で現代の日本へと“転生”を果たすが、そこで出会ったのは自己肯定感が低いために大好きなロリータファッションを着こなせずにいる女子高生・栞だった。

 ロリータファションを通じて、マリー・アントワネットと現代の女子高生が繋がる。このユニークな設定もさることながら、マリーの持ち前の高貴さ、そして周囲を巻き込むほどの強さが、栞にポジティブな影響を与え、徐々に前へ進んでいく展開が読んでいて気持ちが良い。

 だが、なにもマリーは与えるだけの存在ではない。そもそも、王妃時代は人の思惑が渦巻く宮廷に身をおき、自分を傷つけるものは徹底的に排除する.......そんな過激な思想が当たり前だったマリー。クラスメイトからのいじめによって心を痛めた栞を見て、マリーは当然主犯格の人間を排除しようとする。でも、そんな栞はそんなマリーを咎め、共生する道を提案する。決して、異世界からやってきた“無敵なマリー”なのではなく、反対に彼女が栞から教えられて、人として成長をしていく........この時代を超えて相互に保管し合う関係性がなんとも尊い。

『喰う寝るふたり 住むふたり 続(5)』日暮キノコ

 累計200万部突破の『喰う寝るふたり 住むふたり』の続編が最終巻を迎えた。結婚5年目を迎え、35歳になったリツコとのんちゃん。20代の頃のようにはいかない体力、妊活、今後のキャリアプラン、親の老後.......続編のリツコとのんちゃんは、若い頃には考えもしなかった、年を重ねたからこその問題と向き合っていくことになる。

 “続編”が誕生するたびに、つい複雑な思いを抱えてしまう自分がいた。特に、『喰う寝るふたり 住むふたり』のように素晴らしく、かつ綺麗なフィナーレを迎えた作品となると、その後が蛇足だったらどうしよう.......と勝手な心配をしてしまうものだ。だけど、『喰う寝るふたり 住むふたり 続』に関しては、“続編”を読めたことにただただ感謝したくなる。

 『喰う寝るふたり 住むふたり 続』は、前作から変わることと変わらないこと、この線引きがとても秀逸だった作品のように思う。例えば、年齢を重ねた2人は前述の通り、それ相応の悩みと直面していく。それによって、意見が対立し、すれ違うことだってある。時には、ひやっとするような展開だってあった。このシビアさというか、緊迫したような空気感は前作の若い2人にはないものだった。けれど、リツコとのんちゃんが互いを慮り、対話を怠らない姿勢.......それだけは前作からずっと変わらないのだ。

 リツコとのんちゃんのベースにあるものは変わらず、でも、共に過ごした年数や時代と共にアップデートさせた2人の物語。なんだか“生きている物語”だなと感じて、最終巻は終始目頭があつくなった。いち読者として、リツコとのんちゃんの物語をここまで見守ることができて本当に幸せだった。またどこかで再会できる日を夢見て、私も自分の人生をしっかりと歩もうと思う。

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