作家・中村うさぎ、ショッピングの女王から買い物依存症へ 地獄からの脱却と壮絶エピソード
なぜ買い物依存症を克服できたのか?
――『ショッピングの女王』を読むと、90年代後半の中村先生は水道を止められ、税務署員と激しいバトルをしながらも買い物を続けるなど、凄まじい日々を過ごしていたことがわかります。なぜ、買い物依存症を克服できたのでしょうか。
中村:それは「CanCam」のせいですね。雑誌って図々しいなと思うんだけれど、フランスのエルメスで買い物をしてきてください、みたいな企画を平気で立てるわけ。交通費と食事代、ホテル代は出してくれたけれど、バッグを買う費用なんて自腹だよ。しかも、現地では編集者に「えー、それしか買わないんですか?」と言われたりしてさ。今月はシャネルの受注会の支払いでいっぱいいっぱいだったのに、半強制的にエルメスでオーストリッチのバッグを買わされる羽目になったりとか。
――欲しくもないバッグを仕事のために買わされてしまったと。それは中村先生の思いと違ってきますよね。
中村:「中村うさぎが読者にブランド品を格安で放出する」みたいな企画もありました。毎月、何か出さなきゃいけないわけ。その企画のためにエルメスのジャケットを出したんですよ。でも、私は基本的に服をクリーニングに出さないんです。ジャケットを見た編集者が、「クリーニングしていない」「汚れている」とか言ってきた。ありえないくらい安く放出しているんだから、クリーニングなんてそっちでしろよ! と思ったね。
――編集者の要求がエスカレートしていったわけですね。
中村:「有名人が愛用のブランド品をプレゼントします」みたいな企画は読者が喜ぶものだから、「週刊女性」からも、何か提供してくださいと言われたんです。でもさ、なんで読者にタダであげなきゃいけないんじゃないの? 私になんのメリットもないじゃん! そうは思いつつもヴィトンのボストンバッグを提供したんだけれど、これにもいろんな話があってね。当時飼っていた猫を、ケージが無かったのでヴィトンのボストンバッグに入れて動物病院に行ったら、猫がストレスを感じたのか中でウンコを漏らしちゃったわけ。でも、普段用に買ってあった一度も使ってない同じバッグがあったから、当然、綺麗なほうを出したんですよ。猫がウンコを漏らした話を文春に書いたら、週刊女性の編集から連絡があって、「今週の文春で読んだのですが、これは猫がウンコをもらしたバッグじゃないですか?」なんて言われたんですよ。さすがに私も「カチン!」ときたの。そんなの出すわけないじゃない! 編集者のメールが、まるで私へのクレームみたいな文体だったんです。もう頭に来てしまいましたね。
――中村先生の厚意に甘えまくっている編集者がひどすぎますね。
中村:そういうことが何度もあったんです。ブランド品を買う私を面白がってくれるのはありがたいけれど、企画を勝手に立てて、自分の懐を痛めずに作家に物を出させる人権無視のようなやり口に苛立ちが出てきたんです。そしたら、買い物熱が収まってきたんですよ。
――ええっ! それで買い物依存症から脱することができたんですか。中村先生は買い物依存症になるまでの経緯も唯一無二ですが、脱し方も独特というか……。
中村:依存症って、やり尽くしてしまうと別のものに依存したり、もしくは治るかの二択なんです。特に買い物依存症は、禁じられるほどその反動で依存度が強まってしまいます。ところが、私は買い物をしろしろと強制されたせいで苦痛を感じるようになり、興味がなくなったんですよ。
『ドラクエ10』には月3,000円くらい課金してる
――現在、中村先生はブランド品を購入されているのでしょうか。
中村:今はほとんど買いませんよ。Amazonで数千円のものを悩みまくって買うようになりました。経済感覚は払える金額に応じて下がっていくものだと思うんだけれど、周りの視線を気にすると落とせないんです。ブランド品を身に着ける女って、周りからの目を意識しまくっているし、シャネルを着ている私のことが大好き、みたいに思っているんじゃないかな(笑)。でも、私はバカなことをしている自分が大好きだから、別にブランド品じゃなくてもいいんだよね。
――ちなみに、中村先生がお持ちのそのバッグは、どこのブランドのものですか。
中村:このバッグは、コンビニで買った2,500円くらいの雑誌の付録のマリー・クヮントです。高校の時に好きだったブランドで、懐かしくなって買ったらこればかり使うようになりました。これ、めっちゃ使いやすいんですよ! 重い病気を患ってからは、持ち物の使いやすさを重視するようになったかな。エルメスのバーキンなんて何も入れてないのにバッグそのものが重いし、足が悪くて杖を使っているばあさんが持つなんて、罰ゲームかよ! と思いますね(笑)。それに、足が悪くなってヒールが履けなくなったのも原因かな。私はヒールを履いてファッションが完成するという考えがあるので、だったら上に何を着ても意味ないじゃん、と思ったんです。着飾る楽しみがなくなってしまうと物欲は少なくなりますね。
――『ショッピングの女王』を連載していた頃の中村先生とは、別人のようですね。悟りの境地に達したような物欲の少なさというか……。
中村:ただ、食べるものだけはこだわりがありますね。ジャンクフードも好きなんだけれど、やっぱりいいフレンチを食べに行くと全然違うなと思う。ブランド品は手放したものをもう一度買いたいとは思わないけれど、食だけは、前に食べたあの料理をもう一度食べたい……と思ってしまいますね。食事は充実感があるし、幸福感も特別ですから。
――そういえば、中村先生はゲーム雑誌でライターをしていたほどのゲーマーだったわけですよね。今もゲームは遊んでおられるんですか?
中村:『ドラクエ10』には月3,000円くらい課金しています。『ドラクエ』は大好きですよ。『ドラクエ』のおかげで今の私がある……という表現はオーバーかもしれないけど、特別な思い入れがあるよね。だって、ゲーム雑誌「コンプティーク」のライターをやっていたし、そのおかげでライトノベルを書く縁もできたわけでしょ。やっぱりゲームには特別な感情がありますよ。食とゲームが私の生きがいになっていますね。
中村うさぎ、ラノベ黎明期から様変わり「異世界転生」氾濫に喝「テンプレ小説ばかり、書いてて恥ずかしくないのかな」
あらゆる大手出版社から刊行され、巨大な市場に成長しているライトノベル。メディアミックスも好調で、その勢いはとどまるところを知らな…