新装版『ゆうれい談』『艮』刊行で注目! ホラー漫画の巨匠・山岸凉子の作家性

新装版で注目、山岸凉子の作家性

山岸凉子の作風とその影響力

 山岸作品は、人間洞察の深さからくる救いのない顛末が特徴的だ。全てがバッドエンドというわけではないが、基本的に楽観的でご都合主義的な展開にはならない。あくまでも現実的なのだ。それは『舞姫 テレプシコーラ』の中で特に感じられる。バレエの才能はあるが生育環境が悪くレッスン代を捻出できない少女は、母親の指示のもと、体を売って金策に走る。また、発表会のチケットを売り捌く必要があることから、配役は裕福な家庭の子どもが優先されるのだ。

 山岸漫画は、厳しい現実の前では実力もモラルも意味をなさないと突きつけてくる。読者は突きつけられた現実と救いようのない展開に衝撃を受け、答えを模索しようとする。だが、その答えには容易に辿りつかない。何年、何十年経ってから、「あの意味はこのことだったのかもしれない」と気づく。山岸の漫画が時代を超えて愛され続ける理由はそこだろう。テーマが普遍的であり、先見の明があるのだ。

 山岸の細かな心理描写を効果的に演出するのが、絵の線の細さだろう。デビュー当時は、手塚治虫を代表する太く丸い線が主流だったが、山岸は握力が弱かったこともありペン先が硬い丸ペンの使用にシフトする。この細い線で描いたバレエ漫画『アラベスク』(1971)がヒットした裏に、細い線だからこそ表現できたバレエの繊細さがある。そして、この細く描かれた線は、少女漫画における表現幅を増やし、のちの漫画家たちに広く受け入れられていった。

 日本の漫画を語る上で山岸凉子の作品を避けて通ることはできない。だがそれは漫画史における影響力や作品的価値があるからだけではなく、一線を画す面白さと衝撃が楽しめるからなのだ。

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