『ONE PIECE』ルフィが招いた悲劇……“悪”としての海賊像がついに表面化?
ピースメインを目指さない連載版のルフィ
Tボーンの一件は、おそらく作中で初めてルフィの起こした行動が犠牲者を生んだエピソードだろう。とはいえ、そもそもルフィは正義の味方を目指していたわけではない。
ルフィはあくまで海賊であり、過去には明確にヒーローになることを拒否するような言動を見せていた。魚人島編の第634話では、魚人島のヒーローになってほしいと頼むジンベエに対し、ルフィは「いやだ」と反論。
肉があったとして、それを他人に分け与えるのがヒーローだが、ルフィは自分で食べたいからヒーローにはならないのだと語っていた。あくまで原動力が自分の欲望という点で、たしかに正義の味方とは一線を画す生き方といえるだろう。
なお、同作のプロトタイプとなった短編『ROMANCE DAWN』では、ルフィを正義の海賊として描こうとする意図が存在した。作中の海賊は悪行を重ねる「モーガニア」と、正義を掲げる「ピースメイン」に分かれており、ルフィは後者を目指していたのだ。
しかし連載版では、善悪を分ける設定がきれいさっぱり消滅している。そこから考察するに、尾田栄一郎は正義と悪の境界をより複雑なものにすることで、『ONE PIECE』の物語が単純な勧善懲悪に陥ることを避けたかったのではないだろうか。
といっても、今まではルフィを正義の海賊として姿が多かったのも事実。最終章に差し掛かったことで、今後はついに“悪としての海賊”が描かれる段階がやってきたのかもしれない。