『疾風伝説 特攻の拓』所十三、いまだから話せる伝説的暴走族漫画の創作秘話

『疾風伝説特攻の拓』所十三インタビュー

名場面はいかにして生まれたのか!?

――『特攻の拓』といえば数々の名場面です。鰐淵春樹の「“事故”る奴は・・・・“不運”(ハードラック)と“踊”(ダンス)っちまったんだよ・・・・」、一条武丸の「“待”ってたぜェ!! この“瞬間”(とき)をよォ!!」は、漫画を読んだことがない人も知っています。

所:そのあたりは佐木さん一流の言語感覚ですね。特に鰐淵くんのシーンは、普通に車乗ってタバコふかしているだけですから。描いたときは、普通の1コマとして描いたと思いますよ。武丸くんがツルハシを持って単車に乗っているところは、構図を考えながら一生懸命に描いた記憶がありますけれどね。

一条武丸の「“待”ってたぜェ!! この“瞬間”(とき)をよォ!!」は、所が言うように「一枚絵で怖さを見せる」効果が発揮された名場面。

――キャラごとの演出の仕方も多彩ですよね。

所:武丸くんは一枚絵で怖さを見せるタイプだけど、鰐淵くんは仕草とか動作でキャラを立たせるタイプ……って捉えていた私には、「ダンスっちまった」とか言葉にするイメージは無かったんですけど(笑)、……やっぱり普通に「おどっちまった」って言葉を選んじゃうかな? そこは佐木さんに敵わないところですね。

――所先生の漫画は迫力あるコマ使いや、キャラクターの表情の豊かさが魅力です。

所:いろいろと褒めていただくのですが、全然描いているときのことは覚えていないですね。自分じゃ、自分の絵の魅力ってわかんないものなんですよ。

――あと、「!!」「!?」なども『特攻の拓』ならではの独特な表現です。

所:「!?」は担当編集の縄谷くんの癖……マーキングみたいなもんですね(笑)。自分が担当する作品にはとにかく入れまくる。あんまり入れ過ぎるから、単行本化の時にコッソリ剥がしたこともあります(笑)。彼はもともと、「月刊少年マガジン」で四コマ漫画を描いていた作家でもあるので、下ネタやギャグシーンの演出も担当していました。

――所先生が、『特攻の拓』の中でも印象的なシーンを挙げるとすれば、どこですか。

所:増天寺LIVEは描いていて楽しかった記憶があります。ライブのラストで空に龍が現れるシーンでは、雲と稲妻を使って龍を表現させてくれ……って佐木さんに頼んだんですよね。最初にリクエストされたのは龍そのものの姿でしたが、鱗だけの絵を一コマ挟むことで我慢して貰いました(笑)。

大学の後輩が単車のエキスパート

――『特攻の拓』を描く上で大変だったことは何でしょうか。

所:単車の描写ですかね。佐木さんがこだわっていたし、これも「チャンプロード」の切り抜きとか資料をたくさん貸して貰いました。助かったのは、チーフアシスタントの伊藤功くんがバイク好きだったことですね。

――アシスタントに、単車のエキスパートがいらっしゃったですね!

所:私の作品の単車は、ほとんど彼が描いています。自身も長年カワサキの大型に乗っていたので指示もすぐ理解してくれるし。金属の重さや冷たさ熱さを感じさせるカッコいい単車が描けるんです。大学の漫研の後輩ですが、彼がいなかったら『特攻の拓』はなかったでしょうね。

――漫研の先輩と後輩の素晴らしい師弟愛です。

所:もちろん、『ドルフィン』の単車も彼に描いて貰っています。福島に住んでいるから、原稿を郵送して……。令和の時代に、未だデジタル化できてないウチの仕事場です(笑)。

――『ドルフィン』の暴走シーンに『特攻の拓』の面影が感じられるのは、そのためなんですね。さて、人気絶頂だった『特攻の拓』ですが、後半は駆け足で連載が終了しました。

所:終わった時は正直、これで読者に納得して貰えるんだろうか? って思いました。最終回も佐木さんの文章を自分なりに咀嚼して描いたつもりではありましたけど。「スピードの向こう側」とか、まだ描き切れてないと思っていたし。

――伏線が回収し切れていない部分がありますよね。

所:佐木さんは、後は漫画ではなく小説で書きたいって話でしたね。

奇跡の化学反応が歴史的名作を生んだ!

――『特攻の拓』は連載終了後も語り継がれる名作となっています。今年から復刻版の刊行も始まりますが、所先生はなぜこの作品がヒットしたと考えていますか。

所:『特攻の拓』は、原作の佐木さん、編集の縄谷くん、そして作画の私の化学反応ですよ。あと、伊藤功くんね。誰か1人が抜けても成立しなかったと思います。

――奇跡の出会いが名作を生んだと。

所:少なくとも私は人に恵まれたんだと思っています。今まで何のかんの、仕事が途切れることもなく40年近く漫画家やって来られたことも含めて、本当に運の良い人間だと思っていますね。恐竜漫画がキッカケでご縁が繋がったももクロさんの当時のマネージャーさんが、高校時代『特攻の拓』を読んでゼファーに乗ってた……なんて話を聞くと、本当にありがたいなぁって。

――僕は小学生の頃、『特攻の拓』を夢中になって読みました。所先生へのインタビューの前に改めて読み直しましたが、ファンタジーの世界だからなのか(笑)内容がまったく古びておらず、文句なしで面白い。少年漫画としての魅力も普遍的です。単行本が復刊されたら、新しい読者を獲得しそうですね。

所:今度、『東京卍リベンジャーズ』と『特攻の拓』がコラボするんですよ(編集部注:取材時点。2023年2月20日から1週間、両作品の広告が渋谷の町中に貼り出される「渋谷ジャック」が行われた)。『東京卍リベンジャーズ』が火付け役になって、特攻服ブームが海外でも起きていると聞いています。凄いですよね。『特攻の拓』は30年以上前の漫画ですが、単行本の復刊を機に手に取っていただけると嬉しいですね。

●単行本情報
『復刻版 疾風伝説 特攻の拓』
2023年2月より毎月2冊ずつ発売中! 全27巻刊行予定!
発行/講談社

コミックス27巻の続きを描いた
『小説 疾風伝説 特攻の拓』Version28〜32(完結) 発売中!
発行/講談社

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