地方書店の相次ぐ閉店  高齢者が本を買う場所がなくなる状況、シニア向け雑誌にも大きな影響?

高齢者が本を買う場所がなくなる状況

書店の減少がシニア雑誌を苦境に追い込んだ?

 昭和49年(1974)創刊のシニア向け健康雑誌「壮快」で知られるマキノ出版が、3月2日、東京地裁へ民事再生法の適用を申請した。同誌は創刊以来、数々の健康法ブームを生み出し続けてきたパイオニアとして名高いが、近年の出版不況やインターネットの普及を受けて売上が減少していたという。

 数年前までは若者の雑誌離れが叫ばれていたが、対するシニア向けの雑誌はまだ安泰という識者も少なくなかった。しかし、実態としては部数減が続き、決して盤石ではなかったのだ。シニア向け雑誌の部数減が続く要因の一つに、リアル書店の減少を挙げる識者もいる。

 出版業界を俯瞰すると、漫画のように電子書籍との親和性が高い分野は好調で、出版社は決して不況というわけではない。一方で、Amazonやネット書店の影響を大きく受けるリアル書店は、業界全体が確実に不況である。

 日本出版インフラセンターによると、書店は平成24年(2012)の段階では全国に1万6722店あったという。しかし、令和4年(2022)には1万1952店まで減少し、わずか10年で4770店が閉店したことになる。店舗数の減少は深刻といえる。

閉店相次ぐ地方都市の駅前書店

 地方では書店が続々と閉店に追い込まれている。駅前にあるような昔ながらの個人営業の書店は老舗とて安泰ではなく、駅前の空洞化や人口減少、さらには長引くコロナ騒動で受けたダメージも大きいようだ。

 藤子不二雄(A)の『まんが道』にも登場する富山県の文苑堂書店は、昭和21年(1946)以来続いた高岡駅前の店を令和元年(2019)に閉店してしまった。静岡県沼津市にあるマルサン書店仲見世店は、『ラブライブ!サンシャイン!!』の登場人物・国木田花丸が通う店としてラブライバーの聖地巡礼スポットにもなっていたが、令和4年(2022)、コロナ騒動の真っ只中に閉店した。

 文苑堂書店は駅前の店こそ閉店したものの、郊外を中心に大型店を出店し、地方書店の中でも攻めの経営を貫く。マルサン書店も郊外の大型店は維持されている。だが、郊外の店へのアクセスは自動車が必須であり、高齢者の来店ハードルは上がる。地方都市では高齢者が駅前に住まいを構える例も多いため、本が買いたくても買えない、買い物難民が発生しているとされる。

 書店経営者の高齢化も進む。リアルサウンドブックで取り上げた秋田県羽後町の個人経営の書店・ミケーネでは、近隣の書店の閉店に伴い、高齢者向けに本の宅配サービスを行っていた。ところが、高齢だった宅配の担当者が令和4年(2022)に亡くなってしまい、サービスの維持が困難になった。店主も70歳を超えており、先行きは不透明な状態にある。

現在の高齢者が年齢を重ねると雑誌が軒並み休刊に?

 元「テレビブロス」編集者のライター・中川淳一郎によれば、2000年頃の時点で、「テレビブロス」の読者の多くは高齢者が占めていた。同誌はテレビ雑誌の中でも異彩を放っていた存在である。筆者はサブカル系の人々に支持されていたと思っていたのだが、意外や意外、高齢者が主たる読者層を形成していたのである。

 中川はその要因を、「テレビの情報だけを知りたいのであれば、新聞を毎月購読するよりも雑誌を買った方が割安だから」と指摘する。3月1日に休刊になった「週刊ザテレビジョン」は、しばし「ジャニーズのファンが買っている」などと揶揄されることがあった。確かに表紙やグラビアページ目当ての読者はいただろうが、実際は高齢者の潜在的な読者も多かったのではないだろうか。

 令和4年(2022)は近年稀にみる異常な超過死亡者数を記録し、さらに著しい少子化が進むなど、日本の人口が急激に減少した年であった。このような状況が続けば、立ち行かなくなる地方都市も出てくるはずだ。高齢者はリアル書店で雑誌を買うケースが多かった。それが最寄りの書店が閉店して“買い物難民”化すると、雑誌の購読そのものを止めてしまうのではないか。

 現在の60~70代がさらに年齢を重ねた5年、10年後には、多くの雑誌が休刊に追い込まれるという予測もある。定期購読誌の「ハルメク」のように一般書店で販売しない雑誌が好調だが、基本的に雑誌とリアル書店は一心同体の関係にあるのだ。出版社と書店が一丸となって雑誌を売る手法を考えていかなければならないだろう。出版社にとっても、書店にとっても、今が踏ん張りどころといえる。

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