サイン本の転売、漫画家はどう見る?「サインは読者サービスの一環、販売の仕組みを考える時期では」
■転売を撲滅することはできるのか
何かとSNSで議論になる、サイン本の転売問題。書店では通常の本と同じ定価で販売されているものの、熱狂的なファンやコレクターが存在する作家の場合、定価以上のプレミアがついて取引されることが珍しくない。しかも、一部の書店で限定販売されることが多いため、転売屋の餌食にされやすく、フリマサイトなどで盛んに売買されているのだ。
こうした転売対策に乗り出した作家もいる。近年、ある小説家は数千冊の本にサインを書いてサイン本の価格を下落させる作戦に出たケースがあるし、希望するすべての人にサインをすると宣言した人までいる。こうした行動にはSNSでは賞賛が相次いだが、すべての作家ができることではないし、そもそも労力は相当なものである。
今回、何度かサイン本を転売されたことがある漫画家のひな姫に、昨今の転売事情について話を聞いた。ひな姫はおそらく、トップレベルにサイン本に手間と労力をかける漫画家である。水彩画で描かれたイラスト入りのサイン本は完全に芸術の域と言ってよく、一つの絵画作品と見てもいいかもしれない。それゆえ、高額で取引されることが多いのだが、解決策はあるのだろうか。
■サイン本は読者サービス
――サイン本が転売されたり、ネットオークションに出ることに関してどう思いますか。
ひな姫:転売は絶対にやめて欲しいです。描いたものが、即オークションサイトに出されていると、本当にがっかりします。サイン本は一人でも多くの読者を増やしたくて描いている販促物なので、転売されてしまっては無意味ですし、そうされるとわかっているものに労力を割くのは辛いです。
――サイン本にサインやイラストを描くのはノーギャラなのでしょうか。
ひな姫:自分はノーギャラです。あくまで読者サービスと思っています。
――ひな姫先生のサイン本はかなりイラストが緻密で、こだわっています。絵を入れない人も少なくない中、ここまでこだわるのは、なぜでしょうか。
ひな姫:サイン本は返本できないと聞いていたので、ちょっと変わったものを描いて完売させたいという思いで始めました。それが、だんだん凝り過ぎてしまって…、正直やりすぎたなと思っていまして、どこかのタイミングでやめたいなというのが本音です。
■どのタイミングから転売に当たるのか
――ただ、サイン本の持ち主による諸事情によってオークションに出した可能性もありますよね。私は家族に、実家に置いてあったサインをほかの不用品と一緒にまとめて処分されたこともありますし、事情は人それぞれあるかもしれません。もしサイン本が不要になった場合、どのように扱われるのが適切だと思いますか。
ひな姫:自分の本に値段がつくのであれば売ってくれればと思います。生活の助けになれば僕も嬉しいです。……と、こういう話をしていて思うのが、どこからが転売でどこまではセーフなのか判断できないですね。
――転売に関して議論になるのはそこだと思います。販売の翌日にすぐ売ってしまうのは転売かもしれませんが、販売から10年経った本を売るのは転売に当たるのか、といった議論もありますからね。また、転売対策は書店にとってもかなり負担で、サイン本は扱いたくないと話す書店もあったりします。
ひな姫:サイン本の転売問題は、どれだけ対策をしてもなかなか防ぐのは難しいと思っています。むしろ対策の手間ばかり増えて、作家や書店の業務を圧迫するのは望ましくないですね。
■定価販売の枠から外して販売するべき?
――何か、具体的な対策はありそうでしょうか。
ひな姫:例えば800円の本が5千円、5万円で売れてしまったら、それを「売るのは止めてくれと」お願いしても無理ですし、むしろ5万円出しても欲しいと思われるものを800円で売り続ける事が歪なのではとも思います。
――正直、私はひな姫先生くらい描き込んでいるサイン本なら、定価以上の価格で売っても買う人がいるのではないかと思ってしまうのですが。
ひな姫:いっそ、サイン本だけは定価販売の枠から外して、あらかじめ高額で売ったり、書店と作家で利益を折半する方法をとるのが良いのかもしれません。そもそも付加価値を付けて売っているものが、通常のものと同価格って変じゃないかな、と思うこの頃です。……ともかく、転売利益目的の人にほぼ無防備で差し出している状況は、なんとか改善したいですね。
■今後、サイン本はどうあるべきか
サイン本に関しては様々な意見がある。まったく興味のない人もいる一方で、熱狂的にほしがる人もいる。そういった意味ではまさにコレクターズアイテムの筆頭格と言えるものだが、最近は出版社側も紙の本を売りたいがために、漫画家や小説家にサイン本を作らせる事例は多い。
それはあくまでも販売促進の一環ということなので、作家に無償で依頼され、制作されることがほとんどだ。しかし、漫画家の場合は、転売されてしまうと高額になるケースが少なくない。それは絵が入ることが多いためで、コレクターのなかには一点物の美術品として評価する人がいるためである。
そういったプレミアムなものを、いくら販売促進の一環とはいえ、定価で売り続けていいものなのか。店頭にただ並べて売るだけのやり方は正しいのか。書店にも、作家にも、過度な負担をかけてしまうのではないか。誰もが納得いく解決策を見出すために、議論が行われてほしいものである。