追悼・松本零士 もはや漫画・アニメの定番「美少女」「メカ」「銃器」を織り交ぜた作品を生んだ功労者


 2023年2月13日、『銀河鉄道999』や『宇宙戦艦ヤマト』などの作品で知られる漫画家の松本零士氏が、急性心不全のため亡くなった。85歳だった。

 1938年1月25日、福岡県久留米市で生まれた松本は、1954年、「漫画少年」への投稿作『蜜蜂の冒険』でデビュー。1957年の本格的なプロデビュー後しばらくは「松本あきら」名義を使用しており、活動のおもな舞台は少女漫画の世界だった。

 1971年から、「少年マガジン」にて『男おいどん』の連載を開始。「四畳半」を「大宇宙」に見立て、貧乏生活を送る若者の夢と悲しみと笑いを描いた同作は大ヒット。これが松本にとって大きな転機の1つとなったわけだが、さらに1974年、監督を務めたテレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の社会現象的な大ブーム(注・ただし、同作はいきなりブームになったわけではなく、人気が出たのは再放送以降のことである)が、“松本零士=SFの巨匠”というイメージを決定づけることになる(「ヤマト」は漫画版も執筆)。

 そこから先の八面六臂の活躍は、もはや説明不要であろう。とりわけ、『銀河鉄道999』、『宇宙海賊キャプテンハーロック』、『Queenエメラルダス』、『新竹取物語 1000年女王』といったスケールの大きなSF作品の数々は、いまなお世界中の漫画ファンを魅了し続けている。また、漫画やアニメの制作以外でも、故郷(北九州)の街おこし企画に協力したり、東京都観光汽船の水上バスをデザインしたりと、社会的な活動も勢力的にこなした。

SF漫画に“日本的な生活感”を取り入れるセンス

 ところで、松本零士の漫画家としての最大の功績はなんだったろうか。それはたぶん、(現在のオタク文化の隆盛にも繋がっている)「美女(美少女)×メカ×銃器」という3つの要素が絡まったある種の“型”を定着させたことだろう。そしてその3つの要素に対するフェティシズムに、泥臭い“男のロマン”(もしくは“少年の夢”)が加わった時、松本零士の漫画は完成するのだと私は思う。

 また、(やや細かい話になるが)個人的に注目しているのは、彼のSF作品で繰り返し描かれている“和の要素”と“庶民的な生活感”だ。たとえば、あの独特なデザインの大小さまざまな計器類に囲まれた宇宙戦艦の内部で、非戦闘時の乗組員たちは、コタツに入り、湯呑みで茶を飲み、日本酒を酌み交わしている(ある者は、趣味のプラモ作りに熱中している)。これがなんともいえない“間(ま)”と“味”を醸し出しているのだ(さらにいえば、ある種のリアリズムと親近感を生み出しているのだ)。

 つまり、単にスタイリッシュで格好いいというだけでなく、こうした(未来的というよりはどこか懐かしくもある)日本の庶民的な感覚も織り込まれているからこそ、松本零士のSF作品は多くの人々に受け入れられた、といえるかもしれない。そしてその過去と未来、日常と非日常が混在する独自のセンスは、“銀河を駆け抜ける蒸気機関車”という極めて美しいイメージに繋がっていく(当然、これには宮沢賢治から受けたインスピレーションも関係しているのだろうが)。

 いずれにせよ、彼が生み出したのは、まさに“宇宙”だった。たとえ物語の舞台が下宿の四畳半でも、西部の荒野でも、その奥に広がっているのはいつだって無限の世界だった。それはなぜか。答えは簡単である。松本零士という漫画家が人生をかけて追い続けた“少年の夢”に、果てなどないからだ。

 松本零士先生のご冥福を、心からお祈りいたします。

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