【ライトノベル最新動向】「お隣の天使様」全巻が50位以内にズラリ あり得ない恋への期待を誘って人気爆発か?
雨に濡れていた子猫を拾ったら、美少女に変身して身の回の世話をしてくれるようになったとか、罠にはまっていた狐を逃がしてあげたら、美女の姿で部屋に押しかけてきて結婚しようと迫ってきたといった話は、絶対にあり得ないファンタジーだと客観視して楽しめる。これが雨の公園でブランコを漕いでいた美少女に傘を貸してあげたら、部屋を掃除してくれたり、美味しい料理を作ってくれたりするようになるといった話だったら、万にひとつでも可能性がないわけではないと実現を期待してしまう。
Rakutenブックスの週間ライトノベルランキング(2月6日~12日)で50位までの間に刊行分の9冊がすべてランクインしてしまうほど、佐伯さん「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」シリーズが大人気となっている。その背景には、たとえ万にひとつが億にひとつであっても、起こりえるかもしれないシチュエーションだと感じ自分に引き寄せて考えてしまうからだろうか。
小説投稿サイトの「小説家になろう」で連載されていた時から人気だった作品が、GA文庫から2019年に刊行され始めて支持層を広げ、「このライトノベルがすごい!2020」で文庫部門の10位にランクイン。翌年も10位でその翌年は6位と順位を落とすことなく逆に上げていった。
最新の「このライトノベルがすごい!2023」では4位とさらにランクアップ。これに、1月からスタートしたTVアニメの丁寧すぎる作りと、動いて喋るようになった“天使様”こと椎名真昼の愛らしさが乗ったことで、最新刊『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件8』(GA文庫)が19位に入っただけでなく、既刊分のすべてが動いたようだ。
現実には、主人公の藤宮周のように高校生ながらひとり暮らしをしていて、そして隣に椎名真昼のような同じ高校に通う文武両道の美少女が、やはりひとりで住んでいるようなことは滅多に起こらない。その美少女が、高校でも人気者なのに誰とも付き合わず、なぜか雨の公園でブランコに乗ってみたり、木の上にいた子猫を助けようとして足をくじいてみたりするようなこともまずしでかさない。周があまり目立ってはいないものの実はイケメンだというのも一般人には高いハードルだ。
周が真昼に傘を貸すことから始まって、真昼がお返しに掃除や手料理をしてあげて、ならばと周が真昼に誕生日にプレゼントをして喜ばれるような段取りを、しっかりと踏んで関係を深めていくふたりの姿に触れることで浮かぶ幸福感が、つらい現実から目を背けさせてくれるものとして大勢に受け入れられている感は否めない。それでも、絶対に起こらないシチュエーションだとは言いきれないのなら、万にひとつの可能性を千にひとつに変えるための努力を、男子も女子もしてみたいと思えてくる。
困っている人がいたら親切にして、そのことへの見返りを求めない。そこに優しさや実直さを感じたのなら、素直に自分の気持ちを伝えていく。そうすることによって高かったハードルが下がり、だんだんと近づいていけるのだということもまた、「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」シリーズは感じさせてくれる。
最新の第8巻では周と真昼がいっしょにお風呂に入ったり、それ以上の状況を経験したりする。羨ましさも募るが、そうなるまでに8巻分も費やしているというスローな関係だからこそ、成り立っているという状況を理解しつつ、ふたりのような関係の進展を心底から求めるのなら、たとえ億にひとつの可能性であっても挑むしかないようだ。