『山田くんとLv999の恋をする』漫画家ましろと担当編集が明かす創作秘話 ゲーム×恋愛、歳の差ラブの人気作品はどう作られる?
「第6回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」や「第13回ananマンガ大賞」といった名だたる漫画賞で大賞を受賞。さらに待望のアニメ化が決定するなど、快進撃を続ける『山田くんとLv999の恋をする』。漫画アプリ「GANMA!」(ガンマ)で連載中のこの作品は、ネトゲで出会った女子大生と男子高校生が織りなす、じれったくもキュンとする年の差ラブに魅了される読者が続出中だ。この話題作の漫画はどうやって創作されているのか。ましろ先生と担当編集者にインタビュー。そこには、少女漫画と読者に対して真摯に向き合う姿勢。それに、大いなる「山田」への愛が詰まっていた。
各有名漫画賞で大賞、アニメ化決定……快進撃の2022年を振り返る
――2022年は有名漫画賞で大賞を受賞しアニメ化が決定するなど、名実ともに人気を集めた一年でした。この盛り上がりを受けて心境の変化はありましたか?
ましろ:なんだか自分の作品じゃないみたいだと不思議な気持ちになることもありました。ですが、私自身は家でずっと漫画を描くという連載当初から変わらない作業をしていたので、良い意味で何も変わらずにやってこれたと思います。
――ご自身の軸がぶれずに描き続けられたということでしょうか。
ましろ:そうですね。連載当初から、私が描きたいものではなく読者の方が「次に何を読みたいか?」を予想しながら描いてきたのですが、それが今年も変わらずにできたんじゃないかなと。
――担当編集の塚原さんはいかがですか?
塚原:『山田くんとLv999の恋をする』が広がっていくにつれて、忙しさも増していますが、その最中に改めて強く感じたのがましろ先生のプロ意識。もともと作品の作り方などましろ先生から学ばせていただくことが多かったのですが、改めて凄さを実感しています。
自身の経験から生まれた“ゲーム×恋愛”
――ゲームと恋愛を掛け合わせたアイデアはどこから生まれたのですか。
ましろ:連載の企画案を出す時にいくつかネタの候補があったのですが、自分の知識が豊富なテーマが良いなと思ったんです。私自身、もともとかなりゲームをやっていたことがあり“ゲームを使った恋愛モノ”というネタを選びました。
――その頃から茜や山田といった主な登場人物も完成していたのでしょうか。
ましろ:いえ、もう今の『山田くんとLv999の恋をする』とは全くの別物でした。一番最初はゲーム×恋愛と言うよりもインターネットを介した出会いみたいな感じの話でしたね。
――ましろ先生がゲームをやられていたことは作品の中に実体験が反映されているのでしょうか。
ましろ:そうですね。山田と茜がやっている「Forest Of Savior」というゲームの世界観や仕組みは、私が以前やっていたゲームを参考にしています。
ましろ:作中に登場するオフ会に関しては、私自身が引っ込み思案なこともあり実際に参加したことはないです。けれど、ゲームで仲良くなった人と気軽に会って話してみたいなという願望は当時から持っていて。茜のフットワークの軽さは、そういった憧れを込めて描いています。
――ましろ先生からゲーム×恋愛の企画を提案された時、塚原さんは率直にどう思われましたか?
塚原:ゲームって、恋愛漫画においては珍しいテーマだと感じました。ネトゲは私の周りでも熱中している人が多い印象だったので、「ぜひ!」と思いました(笑)。それからすぐにネームに取り掛かっていただきましたね。完成したネームもすごく面白くて、ほぼ修正なしで会議に出したくらいです。
「どこまで恋愛、少女漫画に振り切って良いのか」連載当初の苦悩
――2019年3月より連載を開始し、今年で4年目。これまでに苦労した点や思い出深い出来事などがありましたら教えてください。
塚原:やっぱり最初の方ですかね?
ましろ:そうですね。瑠奈が登場して、茜が「あの子誰なんだろう?」ってなっている時。あの頃は作品の方向性が定まっていなかったんですよ。だから、瑠奈の扱いも恋のライバルにするのかマスコット的キャラにするのかどうしようって……しっかりと固まらないうちに登場させちゃったんです。他にも、初期の頃はとりわけコミカル感が強いというか、もちろん物語を回すためでもあるのですが、茜がピエロみたいな役割をしているシーンが多いんですよね。本当に試行錯誤の時期でした。
――なぜ方向性に苦戦していたのでしょうか。
ましろ:当初は幅広い読者層を意識して描いていたんです。だから、男性読者も意識しなければいけないというプレッシャーがずっとあって。そうなると、私としては少女漫画が得意だけれど、どこまでそっちに舵を切って良いのかと常に迷いがありました。
塚原:「GANMA!」は当時、男性読者が多かったんですよ。だから、たくさん読んでほしいという狙いもあったので、かなり男性読者を意識していました。
ましろ:確かに最初の頃は「GANMA!」で表示されるパネルもアフロの山田がバンって押し出されてましたよね(笑)。だから当時は宣伝ひとつ取っても、男性読者をはじめ広い層を意識して、少女漫画っぽくないものを使っていたなと。
塚原:でも、恋愛色が強くなってきた10話くらいから、『山田くんとLv999の恋をする』がランキングTOP10入りしたり、人気が出始めてきたんですよ。読者の方も女性がどんどん増えて、ファンの方がコメントくださったりして。
ましろ:椿が登場したあたりだったと思うのですが、そこからやっぱり自分の得意な恋愛・少女漫画の方向に振り切りましたね。
意識しているのは “やりすぎない”こと
――『山田くんとLv999の恋をする』を連載していくうえでお二人が意識している点はありますか?
ましろ:あまりかっこよくさせすぎない。つまり、やりすぎないという点は意識しています。『山田くんとLv999の恋をする』は、「GANMA!」だと10〜20代、単行本になると若年層だけではなく、幅広い年齢層の方が読んで下さる。だから、読んでいる方がなるべく気恥ずかしくならないように気をつけています。
塚原:私はゲーム要素がある作品なので、編集としてはゲームに詳しくない方でもわかりやすいようにという点を意識しながらましろ先生と打ち合わせをしています。
――かっこよくさせすぎないように意識していると仰っていましたが……山田、かっこよすぎませんか?(笑)毎話、彼の一挙一動にドキドキしているのですが、山田というキャラクターはどのようにして形成していったのでしょうか。
ましろ:山田って私の中では昔から脈々と続く“クール系男子”のテンプレートだなと思っていて。そこに一芸秀でる部分をプラスしています。やっぱり何かひとつ特別に優れていたり、人に負けないものを持っている男性キャラクターはかっこいいと思うんです。絵が上手いとか仕事ができるとか、得意なものはなんでも良かったのですが、先ほどお話した通り私がゲームの知識があったのでプロゲーマーという設定にしました。