女性向けBL漫画がベストセラー連発  ヒットの秘訣は電子書籍との親和性の高さ?


 2020年代の漫画界で、隠れたベストセラーといえば女性向けのBL漫画である。といっても、出版社側が大々的な宣伝を行っているわけではないので、興味がない人はどんなタイトルが出ているのかすら知らなかったりするだろう。

 しかし、数万部を売っているタイトルはザラで、中には10万部、20万部突破の作品も少なくない。特に、コロナ禍の巣ごもり需要によって売上げが伸びたタイトルも多いという。

 なお、これは電子書籍のダウンロード件数を含む数字だ。BL漫画の躍進を支えている要因は様々あるが、そのひとつが電子書籍の普及なのである。

 リアルサウンドブックでインタビューしている秋田県羽後町の書店「ミケーネ」の阿部久夫店長が証言しているが、男性向けの成人向け漫画並みかそれ以上に売れ行きが大きかったのは、女性向けのBL漫画だったという。しかし、その一方でBL漫画はローカルな書店では買いにくいタイトルであった。阿部店長が言うように、「男性の、特におじさんの店員からは買いにくい」と避けられることも少なくなかったためである。

 ところが、電子書籍の普及によってBL漫画は買いやすい漫画になったのだ。何しろ、書店に赴かずに夜な夜なひっそりと買えるのである。筆者の知人で家族と同居しているBL漫画のファンは、単行本だと本棚に並べるのを躊躇するが、スマホの中に“蔵書”できるので、プライバシーが守られるのがありがたいと言っていた。こうした恩恵をもっとも受けているジャンルと言っていいのではないか。

 同様の理由でヒットが出ているのがホラー漫画であり、やはり人によっては本棚に並べにくいらしく、スマホで読まれるケースが増えているようだ。電子書籍と親和性が高い漫画のジャンルは、ほかにもたくさんあるかもしれない。

 市場の盛り上がりゆえに、別のジャンルからBL漫画へ移籍する漫画家も現れている。特に、BL漫画を得意とするのが少女漫画出身の漫画家だ。既にペンネームを変えてBLを描いている漫画家もいるし、筆者が知る少女漫画家もBLに進出しようと構想を練っている最中である。もともとコミックマーケットでBL漫画の同人誌を出していた少女漫画家も少なくなく、スムーズに移籍できるようである。

 少女漫画家にはかわいい女の子を描くのを得意とする作家と、イケメンを描くのが得意な作家がいる。最近、かわいい女の子を得意とする漫画家が移籍先に選ぶようになっているのが芳文社の「きらら」系の雑誌であり、『こみっくがーるず』のはんざわかおりや、『ぼっち・ざ・ろっく!』のはまじあきなどが移籍してブレイクした漫画家の筆頭である。もちろん、BL漫画に移籍するのは、イケメンを描くのが得意な作家だ。

 盛り上がっているジャンルに優れた人材が集まるのは自然なことである。熱心な愛好家によれば、BL漫画は戦国時代といえる盛り上がりを見せつつあり、優れた作品が次々に生まれているという。BL漫画の中から次代の漫画界を担う傑作が続出する未来も、あり得るかもしれない。

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