BL愛好家・クリス菜緒が選ぶ「2022年BLコミックBEST10」 型にはまらない愛を描く作品に感じる“新たな扉”
筆者は昨年も、BLコミックのBEST10を選出させてもらった。今年もこの機会をもらったのだが、改めてその年の名作を10作品に絞ることがこんなにも苦行だとは……と感じている。選べない、全部トップだと言いたい、と思う気持ちを抑えつつ、2022年に刊行されたBLコミックスの中から10作品をランキングで紹介したい。
※ランキング対象:2021年12月1日~2022年11月30日に発売された単行本
クリス菜緒が選ぶ「2022年BLコミックベスト10」
1位『CURE BLOOD』
戸ヶ谷新(onBLUE comics/祥伝社)
2位『親愛なるジーンへ』
吾妻香夜(ショコラコミックス/心交社)
3位『CANIS-THE SPEAKER-』
ZAKK(バンブーコミックス 麗人セレクション/竹書房)
4位『スリーピングデッド』
朝田ねむい(Canna Comics/プランタン出版)
5位『スモークブルーの雨のち晴れ』
波真田かもめ(フルールコミックス/KADOKAWA)
6位『とめどなくシュガー』
児島かつら(バンブーコミックス Qpaコレクション/竹書房)
7位『百と卍』
紗久楽さわ(onBLUE comics/祥伝社)
8位『彼らをたどる物語』
チョコドーナツ(BABY コミックス/ふゅーじょんぷろだくと)
9位『さよならのモーメント』
仁嶋中道(&.Emo comics/海王社)
10位『蟷螂の檻』
彩景でりこ(onBLUE comics/祥伝社)
10位には、昭和の旧家を舞台に仮初当主の當間育郎とその使用人・深山典彦らによるドロドロ愛憎劇を描いた『蟷螂の檻』を選出。横溝正史作品さながらの閉塞的でおどろおどろしい世界観で育まれる、歪としか言いようのない愛の形から目が離せない一作だ。親に愛されず孤独を覚えていた仮初御曹司の育郎が、典彦の異常な執着からくる長期計画の狂愛に溺れていく艶めかしい危うさに、気づけば飲み込まれていた。闇BLの最高峰と言っても過言ではないだろう。
10位とは打って変わって9位には、三角関係を描いているにも関わらずあまりにもあたたかく優しい展開を見せてくれた『さよならのモーメント』を選んだ。時計屋を営む鼓春哉と、事故死した彼の幼なじみの大狼亮輔、そして幽霊となった亮輔に体を貸すことができる高校生・犬飼司の3人が織りなすちょっと不思議な共同生活を描いている。恋の矢印を自覚しながらも、互いが互いを大切に思うからこそ自分の気持ちを抑える様子に、何度も胸を締め付けられた。何度読んでも、ラストシーンは涙なしに読めない。
また今年は、「さまざまなセクシュアリティの人がいる」という当たり前の事実を、十分に理解できていない自分と向き合う時間をくれた作品との出会いも多かったように感じる。セクシュアリティをカミングアウトすることへの価値観が異なる仁科敬太と矢井場理一の恋を描いた『とめどなくシュガー』(6位)。江戸時代の男色“文化”からくる“恋愛の型”に生きづらさを覚えながらも、ふたりで生きていくと覚悟を決めた元陰間の百と元火消しの卍の“必ず叶える夢”に光が見えた『百と卍』(7位)。1組の男性同士のカップルがじっくりと愛をはぐくむ過程を、彼らの周りにいる女性視点で“日常にいるふたりの男の子”として切り取った『彼らをたどる物語』(8位)。3作品に共通するのは、好きな人を自由に好きと言えないことに苦悩するキャラクターの存在だ。そして周囲には、なんの悪気もなく男性のパートナーが「彼女」であると口にしてしまう、筆者と重なる人物も描かれていた。作品を通して自分の中にある無意識のバイアスの存在を認識したことで筆者は、いかに自分が鈍感に生きてこられたかを突き付けられている。と同時に、大切な人と未来を分かち合うという“未来”や“夢”が、誰にでも平等に訪れる“現実”となるように、小さな声でもあげ続けていこうと思うきっかけとなった。
5位には、『スモークブルーの雨のち晴れ』を選出。製薬会社の元同期でライバルだった吾妻朔太郎と久慈静の8年ぶりの再会とその日々を描いた、大人の等身大BLだ。ふたりの38歳という年齢設定からくる、余裕と苦悩の描き方が非常にリアルだと感じた。くわえて相手が抱える痛みにズカズカと介入はしないものの、相手のSOSにさっと気づきさりげなく手を差し伸べる”距離の置き方”の描写には、大人の優しさが灯っていた。物語はまだ続いている。ドラマチックすぎない穏やかな、でもしっとりとした色気も帯びた大人の恋の行く末を2023年も見守りたい。
それから2022年には、漫画から映像へ広がりを見せそうだと思わずにいられない作品もよく手に取った。ゾンビとして蘇らせた高校教師・佐田をマッドサイエンティストが生かし続けようと人殺しに手を染めるという展開を見せた4位の『スリーピングデッド』では最初、自分の倫理観が試されているかのような気分を味わった。しかし生かす側と生かされる側のエゴが重なり合っていくのを追ううちに、いつのまにか「佐田と間宮だけしかいない世界」に閉じ込められたかのような感覚へと変化を遂げ、自分の倫理観が置き去りになっていることにすら気づかないのだ。こんな没入感を体験できる作品は、そうない。