かつてコミックマーケットに出没していた「スケブ男」とは?  同人誌即売会のマナーを考える

コミックマーケットが行われる東京ビッグサイト。photolibrary https://www.photolibrary.jp

参加者のマナーの良さが誇りのコミックマーケットだが…

 世界最大の同人誌即売会である『コミックマーケット 101』(以下、コミケ)が閉幕した。コミケは漫画好きの祭典と言われ、様々なジャンルの表現者を受け入れてきた歴史がある。

 また、来場者のマナーの良さも定評がある。数十万人ともいわれる来場者を集めながらも毎回大きなトラブルなく開催できているのは奇跡と言っていいし、スタッフの運営スキルも評価が高い。

 一方で、コミケは万人に開かれたイベントであるため、どうしても一部には迷惑行為を働く来場者もいる。徹夜組やダミーサークルなどもその筆頭だが、全体のマナーが良い分、どうしても一部のモラルなき参加者が目立ってしまうのが残念だ。「スケブ男」と呼ばれる男性もそんな存在である。最近は見られなくなったと言われるが、一時期、参加者とトラブルが起こり、注意を喚起するツイートが広がったこともあった。

 そもそもスケブ男とはどのような人物なのか。基本から説明しておこう。コミケなどの同人誌即売会では、スケッチブック(通称:スケブ)というサービスを受け付けているサークルがある。スケッチブックや色紙などを持っていけば、同人誌の作者からイラストを描いてもらえるのだ。スケッチブックはサイン帳のようなものと考えればいい。

 有料で受け付けているサークルもあるが、基本的には無料で、本を買ってくれた人へのサービスの一環として行っていることが多い。最近は受け付けていないサークルも増えたといわれるし、前述のようにサークルの好意で行われているものだから、無理にお願いするのは禁物である。また、イラストを描くのは時間がかかるため、ポーズや衣装の指定など、細かい指定もできればご法度とされる。

 ところが、サークルが困惑するほど執拗にイラストのポーズの指定を行い、「12時まで描いてください」と一方的に時間を指定し、場合によっては描き直しまで命じる来場者がいた。それがスケブ男なのだ。そして、筆者の知り合いのプロの漫画家がコミケに参加した際、なんとスケブ男に遭遇したことがあるという。どのような出来事だったのか、話を聞いた。

スケブ男と遭遇した漫画家にインタビュー

――スケブ男と出会ったのはいつでしょうか。

漫画家:コミックマーケットに出たことは2回あるのですが、7~8年ほど前に、初めてあるアニメの二次創作のサークルで参加しました。本はちょくちょく売れていたのですが、突然「スケブやってますか?」と聞いてきた男性がいたんです。私は「本を買ってくださったら、大丈夫ですよ」と答えました。そしたら、本を買った後にクリアファイルからコピー用紙を出されて、「アリス服を着たキャラちゃんを描いてほしいです」と言われたんですよ(笑)。

――まさにスケブ男の特徴そのものですね。

漫画家:本の上にドンとクリアファイルを置かれたのでびっくりしましたが、色鉛筆の束を渡され、細かいポーズを指定されましたね。注文が結構細かくて、アリス服の色は確か水色で、シンプルなデザインで……とか、いろいろ言われたと思います。

――それは面倒ですね。さすがにイラッとしたんじゃないですか。

漫画家:特に気にせずに描きましたけれどね(笑)。私は普段、編集さんからいろいろと描き直しの指示をされますし、絵の注文を受けるのは慣れていますから。10分くらいでサラサラッと描いて、すぐにできましたよ。

――先生がプロの漫画家だとわかったうえで頼まれたと思いますか?

漫画家:いえ、私はペンネームを変えて出ていますので、特に何も気づいていないと思いますよ。

――仕上がったイラストについて、スケブ男の評価はいかがでしたか?

漫画家:「うお~~~~! かわいい! ありがとうございます!」と興奮して、風のように去っていきました(笑)。私はその時は「えっ、あんな感じでいいの?」と思いました。その方がスケブ男という有名な人だと知ったのは、後から知り合いに教えられてからです。私は仕事で慣れているのでいいんですが、一般の方があれだけ細かく指定され、ましてや描き直しを言われるのは……さすがに辛いですよね。どう考えても迷惑行為だと思いますし、やめていただきたいですよね。

マナーを守ってコミケを楽しもう

 Twitterを見ていると、スケブ男に執拗に絡まれてしまい、スケブの受け付けを辞めてしまったサークルもいるようだ。どんなにイラストを描き慣れている人でも、1枚の絵を仕上げるのは一苦労である。ましてや、異なるジャンルやキャラの絵を描くのは難しい。例えば、『魔法少女まどかマギカ』のサークルに「『SPY×FAMILY』のヨルさんを描いてください」などとお願いするなどは、言語道断だろう。

 記者は漫画家のサイン色紙の蒐集家なので、一点物のイラストの魅力はよくわかるし、実際に同人誌即売会でスケブを頼んだことも何度もある。だが、繰り返すようだが、スケブはサークルが好意で行ってくれるものであり、無理なお願いは厳禁である。同人誌即売会はマナーを守って楽しみたいものだ。

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