『AKIRA』『トトロ』『サマーウォーズ』……国際的アニメ評論家チャールズ・ソロモンに聞く、日本のアニメの特性とこれから

 
 グラフィック社より刊行されている『THE MAN WHO LEAPT THROUGH FILM 細田守の芸術世界』。同書は、『サマーウォーズ』、『竜とそばかすの姫』などで知られる映画監督・細田守の作品を豊富なヴィジュアル資料とともに分析・解説した一冊であり、細田本人はもちろん数多くの関係者たちのリアルな“声”も収録されている。

 

チャールズ・ソロモンを描いたイラスト

 著者は、国際的に有名なアニメーション評論家のチャールズ・ソロモン氏。今回のインタビューでは、そのソロモン氏に、細田作品に限らず、広く“日本のアニメーション”の魅力についてうかがった。

日本のアニメーションの複雑なストーリーテリングと多様なテーマ

――ソロモンさんが最初に興味を持った日本のアニメーションのタイトルを教えてください。

チャールズ・ソロモン(以下、ソロモン) 大友克洋監督の『AKIRA』、そして、宮﨑駿監督の『となりのトトロ』です。その2作は、ひと言でいえば衝撃的でした。とはいえ、最初はディズニーなどの作品と比べて少なからず違和感もあったのですが、すぐに日本のアニメーションならではの特性に気づき、他の監督たちの作品にも興味を持つようになりました。

――日本のアニメーションの特性とは、具体的にはどういったものですか?

ソロモン ドローイングによる線や絵の魅力がまずありますし、キャラクターやメカのデザインも秀逸です。さらには、複雑なストーリーテリングと多様なテーマも魅力的です。特に後者については、日本の方々は自然に受け入れていることでしょうが、他国のアニメーションにはあまり見られない特性だといえます。

――ところで、現在、世界的に名前が知られている日本のアニメーション監督は何人かいると思いますが、その中からなぜ、今回の本では細田守監督を採り上げようと思われたのでしょうか。

ソロモン あれはたしか、『未来のミライ』がオスカーにノミネートされ、細田監督とプロデューサーの齋藤優一郎さんが渡米された時だったかと思いますが、おふたりとお会いする機会がありました。その時、「細田作品に関する書物が欧米ではまだ1冊しか出ていなくて、しかもその本には誤記が多い」ということをお伝えしたのです。すると即座に、齋藤さんから「それでは貴方が正しい本を書いてください」といわれまして(笑)。それが今回の本『THE MAN WHO LEAPT THROUGH FILM 細田守の芸術世界』を書く直接のきっかけになりました。細田監督の他にも採り上げたい監督は何人かいるのですが、こういうことはタイミングや人との出会いが重要ですからね。もちろん、何よりも細田作品をもっと広く世界の人たちに知ってほしいという気持ちもあります。

細田守作品の世界観とキャラクターの魅力

――細田監督に、「いままで監督した中で最も好きな作品と、最も困難だった作品は?」と訊いたところ、「いずれも常に最新作です」という答えが返ってきたそうですね。ちなみにソロモンさんがお好きな細田作品はどの作品ですか?

ソロモン 1つだけ選ぶのは難しいですが、強いていえば『サマーウォーズ』でしょうか。というのは、私が最初に観た細田作品がその作品でしたので、どうしても強く印象に残っています。その後の作品、たとえば最新作の『竜とそばかすの姫』などと比べて映画として優れているかと問われれば、映像的にも内容的にも未熟な部分はあるかもしれません。

 しかし、『サマーウォーズ』には、その後の彼の作品にも引けを取らない良い部分が少なくとも2つはあると考えています。まずは、物語の世界観を表わすヴィジュアルのクオリティが極めて高いところ。つまり、全く異なる要素を持つ、現実の世界と仮想空間(OZ)を対照的に描きつつも、映画の中で巧みに融合させている。いまは当たり前のように、誰もがパソコンやスマホの中にあるバーチャルな世界を体験しつつ、現実の世界を生きていますよね。そうした感覚をあの時代に、自然な形で映像化していたというのは凄いことだと思いますよ。

 そして、もうひとつはキャラクターの描き方。これは細田作品に限らず、日本のアニメーションの優れた部分のひとつだと思いますが、主人公はもちろんサブのキャラクターたちにも“深み”がある。残念ながらアメリカのアニメーションの登場人物は、そこまで複雑で多面的ではないんです。とりわけ日本のアニメはヒロインの描き方が興味深い。彼女らは単に美しいだけでなく、不安に怯えることもあるし、欠点もある。時には嫌な面も見せることさえある。そういうヒロインたちのリアルな描き方が、日本のアニメーションを他に類のないものにしているように思います。

――キャラクターということでいえば、細田作品には「本」や「本棚」が象徴的に出てきますよね。つまり、「誰がどういう本を読んでいるか」というのは結構重要なことで、『サマーウォーズ』にしても『おおかみこどもの雨と雪』にしても、ある意味では「本がキャラクターを立てている」といえなくもないかと思います。

ソロモン それはとても良いご指摘です。これは直接、細田監督から聞いたことでもあるのですが、彼がキャラクターを作る際、その人物がどういう家に住んで、どういうものをふだん食べているのかについては、人一倍こだわって考えているのだと。本や本棚も、そういうもののひとつですよね。本棚に並べられた本は、その持ち主の頭の中を表わしているものですから。

 ちなみに、同様の表現は、実写映画ではそのまま本や本棚を写せばいいだけなので比較的簡単です。しかし、アニメーションの場合は、それがどういう本なのか、たとえば、細かい書名や作者名まで描き込まないといけないわけですから、より意識的になる必要があります。たとえば、『サマーウォーズ』では、古い本と新しい本、そして、いろんなジャンルの書物が陣内家の本棚に並んでいる描写が出てきます。その映像をひと目見ただけで、観客はこの家に暮らしているのが大家族で、その人たちが本を大切にしているのだということがよくわかります。また、中には和綴じの古書などもあり、歴史のある旧家であるということまでわかる。そういう細かい演出も細田作品の魅力のひとつだと思いますね。

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