『HUNTER×HUNTER』ブラックホエール号は「階層化された社会」 複雑化する物語を追う
各王子の私設兵は多くて10人以上いて、各王妃の私設兵や従事者も含めるとすでに100人以上の人物が登場しているのだが、物語は王位継承戦がおこなわれている第1層だけでなく、民間人の乗っている第3~5層まで広がっていく。B・H号は、3層をエイ=イ一家、4層をシュウ=ウ一家、5層をシャ=ア一家という王子と繋がりのあるマフィアが仕切っているのだが、エイ=イ一家の組長・モレナが23人の部下に念能力を分け与え、部下たちが殺人をはじめたことで、船内には不穏な空気が漂い始めていた。しかも、クラピカと因縁のある盗賊・幻影旅団まで一般渡航者として乗船しており、仲間を殺した奇術師のヒソカを探して船内を動き回っていた。
第1層では14人の王子たちによる王位継承戦、3~5層ではマフィアの抗争が起こっており、そこにクラピカたちハンターと幻影旅団と動きが全く読めないヒソカが絡むという複雑な群像劇が、B・W号の中では展開されている。
王位継承戦が始まった時は、暗黒大陸編に向かうまでの“つなぎ”のエピソードだと思い、すぐに終わると思っていたのだが、物語は複雑化しながら、どんどん広がっている。特に37巻は、一話あたりの文字量が膨大で、まるで小説を読んでいるみたいだ。おそらく、普通のコミックスの一冊分の情報量が一話の中に詰め込まれているのではないかと思う。基本的なフォーマットはこれまでの『H×H』と同じ異能力バトル漫画だが、船内という限定された空間の中で蠢く人々の姿をみせることで、階層化された社会と、そこで生きる人々の姿を描こうとしている。各登場人物は、少年漫画とは思えないくらい年配の男女が登場する。年齢と性別のバリエーションはとても豊かだ。これまでの冨樫義博作品と比べると、各キャラクターの顔付きはだいぶ記号化されている。そのため、最初は誰が誰だかわからないが、読み続けていくとだんだん見分けがつくようになってくる。それでも劇中で起こっていることの全てを把握することは困難だが、だからこそ、何度も繰り返し読んでしまう。
魅力的な登場人物が次々と増えて物語が拡大されていくため、終わりは全く見えない。
だが、ここまで待たされたのだから、最後まで冨樫義博と『H×H』に付き合いたいと思う。一生を賭けて読み解く価値のある漫画である。