『チェンソーマン』はトロッコ問題とどう向き合う? 少年漫画の常識を覆す、驚きの選択
その後、チェンソーマンとゴキブリの悪魔の戦いが描かれる。大胆なコマ割りでみせるダイナミックな戦闘シーンはさすが藤本タツキだが、それ以上に驚いたのは、戦いの中でチェンソーマンがおこなった選択だ。
追い詰められたゴキブリの悪魔は、未来のある学生一人と車に乗った「ジジイとババア」5人を人質に取り、「お前は どっちを 助ける!? 正義の味方 チェンソーマン!」と言って、地面に落下させる。いわゆる「トロッコ問題」と呼ばれる理不尽な二択である。普通の少年漫画の主人公なら、どうすれば犠牲を出さずに両者を助けることができるかと悩む場面だろう。
しかし、チェンソーマンはどちらも助けず、躊躇なくゴキブリの悪魔を斬り殺す。その結果、二組とも助からずに死んでしまう。その後、ゴキブリの悪魔を倒したチェンソーマンは、ビルから落ちそうになっている猫をすくい上げ「ネコも いたよ」と言う。
普通の少年漫画ならありえない展開だが、人間よりも「ネコを助けたい」という自分の気持ちをデンジが貫く姿を見て、これこそ『チェンソーマン』だと思った。
見どころの多い12巻だが「自分の気持ちが間違えていなければいい」というユウコの台詞と、人間よりもネコを助けたチェンソーマンの選択が、もっとも印象に残った。
劇中では周囲の目を気にしてアサが苦しく姿が繰り返し描かれているが、学校のイジメのような「みんなの正義」ではなく、たとえ間違っていたとしても「個人の正義」をデンジたちが貫く姿を本作は描こうとしているのだろう。今後、102話の問いかけが、第2部の主題となるのではないかと思う。
『チェンソーマン』は現実と戦う漫画だーージャンプ大好き評論家3名が「第二部」を語り尽くす
2022年10月11日より、いよいよTVアニメの放送がスタートした『チェンソーマン』(藤本タツキ)。本作は、「週刊少年ジャンプ」…