地方書店の現状 成人向け雑誌の低迷、仕入れはAmazon、電子書籍の普及、人口減少……町の本屋は四重苦から脱却できるのか
成人向け雑誌が売れなくなった
現在、ミケーネの屋台骨を支えているのは、漫画雑誌とコミックスである。近年は『鬼滅の刃』『呪術廻戦』などのヒット作が売り上げに大きく貢献した。現在は、アニメもヒットしている『SPY×FAMILY』、羽後町の西側にある、にかほ市出身の漫画家・藤本タツキの『チェンソーマン』などが売れ筋である。
対して、ミケーネが全盛期だった2000年代の収益の大きな分野といえば、何を隠そう、成人向け雑誌だった。ところが、インターネットの普及に合わせて、坂を転げるように売り上げが下がっていった。成人向けのコンテンツはネットで容易に入手できるためだ。しかも書店で買えば数千円だが、ネットならタダである。阿部店長によれば、かつてのお得意様だった若者が成人向け雑誌を買いに来ないのだという。数少ない顧客は、ネット環境をもたない高齢者だけだ。
「かつては、成人向け雑誌を万引きした高校生とバトルしたこともあるし、『内緒で売ってください』と高校生から懇願されたこともありました(笑)。けれど、若者はもう、見向きもしなくなってしまった。現在の購買層である高齢者がいなくなれば、成人向け雑誌は終わりですね」
また、ボーイズラブの本もかつては売れ筋だったというが、近年は動きが鈍いという。市場としては決して縮小しているわけではないようだが、書店にもたらす恩恵は大きくないのだろうか。
「ボーイズラブの本は、読者が書店で買うのに抵抗があるようです。以前はめちゃくちゃ売れたんですが、今は読みたい人たちはネットで買っているようです。確かに、私のような男の店員から買いたくない、という気持ちはわかりますが……」
羽後町は著しい少子化が続く。2000年に128人だった出生数は、昨年は46人。町議会議員も務める阿部店長は「目を覆いたくなるほど落ち込んでいる」と話す。少子化の煽りを受け、屋台骨を支える漫画雑誌ですら深刻な落ち込みである。特に深刻なのが少女漫画雑誌という。
「もっとも売れていた少女漫画雑誌は、数年前は月20冊売れていたけれど、今月は1/3くらい。そのほかの少女漫画雑誌でも取次が月10冊は回してくれるけれど、ぜんぜん売れないので返本率が凄いんです。羽後町の少子化の影響をもっとも受けているのが、対象年齢が低い少女漫画なのかもしれません」
本を店頭に並べているだけで売れた時代は終わった。書店は薄利多売のシステムゆえに、通販で遠方の顧客向けに売るのも、個人経営の書店ではAmazonには太刀打ちできないジレンマもある。一連の状況を鑑みた阿部店長は、あらゆる分野で地域の人たちを相手にした商売は成り立たなくなるとみている。
それでも、ミケーネに本を買いに来る客はいる。長年の付き合いがある人、そして、地元の書店を残したいと考えて買い支えてくれる人だそうだ。