乾ルカ×アンジェリーナ1/3が語る、友達の大切さと世界の美しさ 「全部が素敵だったと言える人生を過ごしたい」

乾ルカ×アンジェリーナ1/3 対談

“どの人物にも私がいる”という怖さ

——『水底のスピカ』は青春群像劇ですが、ヤングケアラー、経済的な格差などの現在の社会的な問題も反映されています。

乾:社会問題をどこまで反映するかは、現代を舞台とした小説を書くうえで難しい問題だと思っています。私自身、社会問題に興味がないわけではないし、言いたいことがないわけでもないですが、それを語るために小説を書いているわけではなくて。私にとって小説は、個人の意見を主張する手段ではないということですね。たしかに社会問題も反映していますが、それは物語における色彩の一つであるという捉え方をしています。

——なるほど。アンジェリーナさんはラジオ番組『アンジェリーナ1/3のA世代!ラジオ』でミュージカル「ヘアスプレー」を題材として取り上げて、差別について言及するなど、社会的な事柄にも積極的にアプローチしている印象があります。

アンジー:私たちの世代は「それはダメ」と頭ごなしに言われることが多いんですけど、何がダメなのかを知らないまま大人になるのは怖いことだなと思うんです。私もぜんぜん社会問題に詳しいわけではないけど、「なぜ戦争がいけないのか」みたいなことを意識して学ばないと、同じことを繰り返していまいそうな気がして。人間関係もそう。「この言葉を言えばどうなるか」「どうして人を傷つけてしまうのか」を学ばないと成長できないと思っています。

 『水底のスピカ』で言えば、クラスメイトを“1軍”と“2軍”に分けるみたいなスクールカーストの描写がありました。自分もそうですけど、「人をランク付けしたり、差別なんかしないよ」と思っていても、心のどこかに「自分は1軍でいたい」という気持ちがあるんじゃないかなと。小説を読んでいると、「自分にもこういうひどい部分があるな」と思ったり。ぜひ、今の学生のみなさんにも読んでいただいて、そこで感じたことを大切にしてほしいです。

——登場人物がそれぞれ複雑な内面を持っているので、読んでいるといろんな感情が生まれて。それも群像劇に面白さだと思います。

乾:『おまえなんかに会いたくない』もそうですが、群像劇を書くと私自身もいろんな登場人物の視点に立ってモノを見られるので、それが醍醐味だと感じています。「この子の考え方は私には合わないな」というキャラクターもいるんですけど、書いているうちに、どうしても自分と重なってきてしまうんです。いろんな人物を書ける楽しさと同時に、“どの人物にも私がいる”という怖さもあって。

アンジー:それは私も感じてました。「この子のこの部分は私に似てる」とか、いろんな人のいろんな部分にリンクするというか。そこも『水底のスピカ』の奥深い魅力だと思います。

「世界は美しいはずだ」と思いたい

乾:アンジーさんの歌詞についても聞かせてください。私、「I wish I」の歌詞が好きで。作詞・作曲は“Gacharic Spin”になっているんだけど、インタビュー記事によるとアンジーさんが書かれたそうですね。

アンジー:はい。「I wish I」は自分の感情がすごく露わになっている曲です。この歌詞を書いた時期はコロナ禍で、ずっと家にいて、時間があったんです。あの頃はみんなのなかにいろんな感情が渦巻いていて、インターネットにはひどい言葉もたくさんありました。どんなにイヤな意見でも、大人数が賛同すれば正解になってしまうのも気持ち悪かったし、「つまらなくて、汚い世界だな」と思ってしまって。ただ、私は「それは正解じゃないと思う」と口に出せなかったんです。批判されたり嫌われるのが怖かったので……。それでも「世界はとても美しいはずだ」と思いたかったんです。憎たらしいし、醜いし、どうしようもない部分もあるけれど、ここに生まれたからには、「この世界が美しい」と思える何かがほしい。それを見つけるまでしっかり生きていたいなって。

——「I wish I」には「世界はとても美しい」というフレーズがありますね。

アンジー:そうですね。ほかにも「誰かと違う僕は愛されないのか?」という歌詞もあるんですけれど、それを差別の問題やLGBT+Qの問題と重ねてくれた人もたくさんいて。あなたはあなたの正解があるし、美しい心で生きていってほしいなって……おこがましいですけど、乾さんとお話していて、「似てるな」っていう感覚があるんですよ。

乾:おこがましいですけど(笑)、私もそう感じてます。「世界はとても美しい」は強い言葉だし、歌詞に書くのはすごく勇気が必要だったと思うんです。でも、私自身もいまだに「世界は美しいはずだ」と思いたいし、次回作ではそのことをテーマにしようと思っていました。「I wish I」を聴きながら書きます。

アンジー:ホントですか!

乾:はい。アンジーさんがEテレの『超多様性トークショー!なれそめ』に出演していたときにお話しされていたことを聞いて、アンジーさんは本当に美しいものが見えてる方なんだなって感じたんです。だからこそ、「I wish I」のような歌詞が書けるんだと思います。

アンジー:うれしいです。……やばい、泣きそう。

——今のお話は、『水底のスピカ』にも通底していますよね。

アンジー:(涙を拭きながら)そうだと思います。『水底のスピカ』の美令、和奈、更紗は不安や恐れと向き合って、それでも自分たちがいる場所を「美しい」と感じる。そのときの3人のきれいな空気感が伝わってきて、涙がポロポロ出てきました。私もこんなふうに生きていきたいし、年齢を重ねたときに、「全部が素敵だった」と言える人生を過ごしたいです。

乾:ありがとうございます。そこまで読み取っていただいて、本当に光栄です。

アンジー:こちらこそ、今日はお会いできて本当に光栄です! 学生時代はけっこう本を読んでいたんですけど、バンドに加入してからは、がんばらなくちゃいけないことがたくさんあって、あまり読めてなくて。久しぶりに読んだ小説が『水底のスピカ』で本当に良かったし、ぜひいろんな世代の方たちに手に取ってほしいです。

■書籍情報
『水底のスピカ』
著:乾ルカ
発売日:10月7日
価格:1760円
出版社:中央公論新社
特設サイト:https://www.chuko.co.jp/special/minasokonospica/

■ラジオ情報
『アンジェリーナ1/3のA世代!ラジオ』
パーソナリティ:アンジェリーナ1/3
放送日時:毎週金 20:30~21:00
放送局:文化放送
公式サイト:https://www.joqr.co.jp/qr/program/ang/

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