【誕生日】 漫画家・矢口高雄 人気イラストレーター・Ixy「AIが絵を描く時代だからこそ釣りキチ三平に学ぶべき」
矢口高雄の生き方が再起の原動力に
――矢口先生といえば自然漫画の大家として名高いですが、エッセイ漫画にも才能を発揮しています。『9で割れ!! ―昭和銀行田園支店』(中央公論新社)では、自身が漫画家になるまでのエピソードを描きました。
Ixy:矢口先生のエピソードが好きで、一時期、だいぶ調べたんですよ。30歳くらいまで矢口先生が漫画家デビューする前は銀行マンで、その間に漫画から離れていた期間がありましたが、夢を捨てられずに、一念発起して漫画家を目指し始めた。お話したように、僕も絵を描かない期間があったんです。矢口先生のような大御所ですらそんな期間があったんだから、僕も頑張ってみようと思えました。Twitterを2018年の元旦から再開したときは死ぬほど絵を描きましたよ。僕が再起する原動力を、矢口先生は与えてくださいました。
――そこまで思いを寄せていた矢口先生が亡くなったときは、どう感じましたか?
Ixy:矢口先生が亡くなったと聞いた時は、自然に涙が出てきて…… 自分でも驚きました。それまで矢口先生のTwitterを見るのが好きで、先生ご本人のコメントが掲載されることがあったんです。それがもう見られないのかと思うと悲しくて、一時期はTwitterを見ることすら辛くなったんですよね。ついにお会いすることは叶いませんでしたが、僕は矢口先生をここまで意識していたんだなと、改めて実感しました。
――リスペクトする存在として、身近に感じていたというわけですね。
Ixy:僕が絵を描き始めた2000年代に影響を受けたのは、京都アニメーションに所属していた堀口悠紀子さんの絵でした。そして、復帰のきっかけを作ってくださったのは矢口先生の絵です。絵はもちろんですが、生き様からも影響を受けていますから、その存在は本当に大きいですね。
AIが絵を描く時代だからこそ、矢口高雄から学びたい
――このインタビューを読んで、矢口先生の漫画を読み始める人がいそうですね。
Ixy:イラストレーターを目指す人は、ぜひ読んでいただきたいですね。最近の若い人たちの絵を見ると、2010年代のアニメ絵やTwitterの人気イラストレーターから影響されているのがわかります。対して、矢口先生や手塚治虫先生などの絵を見ている人は決して多くないと思います。
――おっしゃる通りだと思います。若手のイラストレーターや漫画家志望の人に話を聞いても、矢口先生や手塚先生の漫画を読んだという人は、ほとんどいません。
Ixy:ファッションの流行が繰り返すように、絵や漫画の流行も繰り返すんじゃないかと思うんですよね。イラストの技術が一定の水準まで高くなった今こそ、他人と違う絵柄を確立したいという人は、個性豊かで唯一無二である大御所の作風から学ぶべきだと思います。
――といっても、Ixy先生のようなイラストレーターと矢口先生のような漫画家では、絵に求められるエッセンスが違ってくるのではないでしょうか。
Ixy:そんなことはありません。矢口先生の絵はパッと見た瞬間、喜んでいるとか、悲しんでいると一目でわかるんです。あの表現力は、僕たちが描くような一枚絵にこそ必要だと思います。僕は女の子が中心にいる絵なら、この子がどんなことをしているか、どんなことを思っているのか……まで汲み取ってもらえる絵を描きたいです。
――イラストレーションにこそ、矢口先生のような表現力が必要ということですね。
Ixy:きれいなだけの絵を描くなら、最近話題になっているAIに任せておけばいいんですよ。イラストレーターはキャラクターの心情まで描写した、人間にしか描けない絵を追求していくべきだと考えます。僕もそうなるべく、日々絵を頑張って描いていますし、創作へのヒントを与えてくれるのが矢口先生の絵だと思っています。