AIソフトmimic(ミミック)はイラストレーターの仕事を奪うのか?

 イラストレーターの画風や特徴をAIが学び、自動的に新しいイラストを作成するアプリ「mimic」ベータ版が話題になっている。15~30枚程度のキャラクターイラストを用意すれば、自動で顔の部分を抽出、描き手の絵柄をAIが学習し、イラストを作成してくれるというものである。運営元が提示したサンプルのイラストを見ると、なるほど、なかなか完成度が高いようで、描き手と寸分違わない画風で仕上げてくれるようだ。

 こうしたアプリが登場することで、イラストレーターの仕事がAIに奪われるのではないか、悪用されるのではないかと不安がる声が挙がっている。Twitter上ではプロのイラストレーターはもちろんだが、普段イラストを描かない人も議論に参加。「mimic」にサンプルを提供したイラストレーターが炎上するなど、騒動は収まる気配がない。

 そして、8月30日、「mimic」ベータ版はサービスの提供終了に追い込まれてしまった。前日にリリースしたばかりだったため、わずか1日での終了である。運営元にしてみれば苦渋の決断だったことだろう。プレスリリースを見ると、不正利用に関する課題が改善できていなかった点を理由のひとつに挙げている。不正利用とは、利用者が著作権を持っていないイラストを許可なく使い、イラストを作成することを指す。

 筆者はこうしたアプリを歓迎する立場である。アプリを巧みに使いこなす描き手が現れ、表現の幅が広がる可能性があるからだ。そもそも、AIがアートの分野に進出するのではないかという予測は以前から指摘されており、特段驚くことではない。問題は、こうしたアプリやテクノロジーをいかに活用していくかにかかっているといえよう。

 ここから先は、ネット上で議論になっている懸念事項を検証してみたい。

 まずは、「mimic」がイラストレーターの仕事を奪うのか、という点だ。結論から言えば、それはあり得ないと思われる。多少の影響はあったとしても、業界を揺るがすほどの深刻な影響を及ぼすには至らないはずだ。

 かつて、無料で使えるフリー素材集「いらすとや」のイラストがイラストレーターの仕事を奪うという批判があった。しかし、実際に奪ったというデータはないし、業界は縮小していない。いらすとやのイラストは、今までイラストが使われていなかった媒体に用いられたり、素人が描いていたカットを置き換えた程度だろう。むしろ、いらすとやの味わい深いイラストは熱狂的なファンを集め、業界の活性化に一役買ったといえる。

 プロのイラストレーターは「mimic」を活用するだろうか。猫の手も借りたいほど多忙な人であれば助けを求めることはあるかもしれないが、大半は自身の手で絵をつくることにこだわるだろう。また、企業側がこうしたアプリを使う可能性は低い。売れっ子のイラストレーターの絵柄を無断で使用したら炎上してしまうし、使いこなすにはイラストへの造詣の深さが求められる。このアプリをわざわざ使うくらいなら、いらすとやのイラストを使うほうが容易いだろう。

 続いて、不正利用されるのではないという問題である。ネット上には著名なイラストレーターの絵を使った、「パクリ」「トレース」「なりすまし」の常習犯が多い。色を変えたり、反転したり、サインを入れて「自作宣言」をする人は後を絶たない。こうした人々が「mimic」で絵を作成する例が出てくるのではないかという懸念は、プロの側から強くあるようだ。

 こうしたケースは、アプリが存在しなかった頃から多数あるのだから、残念ながら起こり得ると思う。そして、自作と偽って商業誌に売り込む描き手が出現するかもしれない。ゆえに、不正に作成されたイラストを使わないよう、企業側には水際対策が求められる。

 これまで、企業側には絵の良し悪しを判断する審美眼が求められていた。AIが普及するであろう今後は、持ち込まれた作品が自作かどうかまで見抜く鑑定眼が必要になるだろう。漫画の新人賞の受賞作が盗作とわかり、受賞取り消しとなった例は過去に何件もあるのだ。賞金狙いで応募してくる人に騙される可能性は十分にある。将来的にはAIが鑑定眼をも担う可能性はあるが、人の感情に訴える絵の良し悪しは、担当者が自ら行なうべきだと思う。

 筆者の知人の、ある漫画家がこう話す。「以前、他人の絵をトレースした絵を自作と称していた疑いのあるイラストレーターを、あろうことか大企業が広告に使った例がありました。ソフトの進化で、デッサンが狂っていなくて、塗りが美しいような“技術的に上手い絵”は練習すれば描けるようになっています。これからの時代は、依頼する側もTwitterのフォロワー数やいいねの数で判断するのではなく、むしろ“自身が好きなイラストかどうか”を判断基準に据えるべきではないでしょうか」

 AIの創作が現実になる現代、優れたイラストとはどのようなものなのか。議論が巻き起こることを期待したい。

 ただ、確実に言えるのは、心血を注いで創作活動をしたいという描き手の欲求はいつの時代も変わらないということだ。そうして生まれた創作物はしっかりと受け手側に伝わり、心を動かす。AIが社会に進出した時代でも人が生み出す創作物はなくならないだろうし、そうした作品を求める声もまたなくなることはないだろう。

 そして、「mimic」はクリエイターの敵ではない。不正利用する人がいたとしてもそれは少数で、志あるクリエイターの創造力を拡大してくれるのではないだろうか。運営元は、不正利用の対策が改善されれば、正式版をリリースする可能性もあると述べている。これほどTwitterが沸騰したアプリは珍しいだけに、正式版への期待は高まる。ぜひとも、多くのユーザーを幸せにするアプリへと生まれ変わってほしいものだ。

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