「楽しかった読書体験」を呼び覚ます、又吉直樹×ヨシタケシンスケ『その本は』を万人に薦めたい
「何か面白い本があったら紹介して」
読書好きの人がよく聞かれる質問だ。読書量が多い人なら、自分が没頭するような、未知の名作を教えてくれるだろうと期待するのだろう。だが、こういった質問はかなり困る。
というのも、面白く感じる本は読み手側の趣味嗜好やそれまでの経験、読書量に左右される。自分が面白いと思っている本が必ずしも相手にとっても面白いとは限らないのだ。
小説家であり自身もかなりの読書家である又吉直樹は、この質問にいつも頭を悩ませていたという。人気絵本作家のヨシタケシンスケも同じ気持ちだったようだ。
そこで、2人は「何か面白い本があったら紹介して 」という言葉に自信を持って答えられる本を作った。それが『その本は』(ポプラ社刊)だ。
「その本は……」
『その本は』は、ふたりの男たちが多様に命じられて世界中の珍しい本を探して聞かせる、という内容だ。だが、この本の魅力は単純ではない。
さまざまなジャンルについて、とても簡単な言葉で語られていたり、イラストで説明されていたりすることもある。涙を誘う短編小説もあれば、急に笑いをとりにくる。
読後は「そうだ、私は本が好きだったんだな」「あぁ、今すぐ本が読みたい」となる。というのも、『その本は』は、自分の中にしっかりと存在する「好きな本のジャンル」と「楽しかった読書体験」を呼び覚ましてくれる本なのだ。
「何か面白い本があったら紹介して 」と言われて紹介しても、それが必ずしも受け入れられないということは、聞いてきた人の中で読みたいジャンルや読みたいテイストの本は既にあるのだ。だが、それに気づいていない人があまりにも多い。だから、『その本は』を読むことで、それを認識してもらおう、という思いが込められているみたいだ。
自分の国語力を高める追体験ができる
それだけでなく、読書には語彙力やテーマに対する知識、EQ(他者の感情を感じ取る能力)も必要だと再認識させてくれる。
というのも、『その本は』は、徐々に文章の難易度を上げる構成となっていて、それまで流れるようにページをめくっていたのに、あるところで急に立ち止まってじっくり読まないといけなくなるのだ。
徐々に文章の難易度が上がるといえば、小学校の国語だろう。あの頃の、読める字が増えたり、登場人物の少し複雑な感情を理解したりする懐かしい記憶が蘇ってくる。
終わりまで読むと、自分がしっかりと国語力を培っていたことに気付かせてくれる。国語の授業の追体験をしたことで、ちゃんと成長できていたのだと感じた。よくわからないが、『その本は』を読んだあと、筆者は自分を褒めてやりたくなった。