「#わたしを作った児童文学5冊」で蘇る児童文学への記憶 ファンタジーへの親和性高め読書への自信をつけさせる役割

「#わたしを作った児童文学5冊」で蘇る児童文学への記憶

 ツイッターで「#わたしを作った児童文学5冊」というハッシュタグが盛り上がっていたのでやってみた。

・『27世紀の発明王』(ガーンズバック)
・『地球さいごの日』(ワイリー)
・『灰色熊ワーブの一生』(シートン)
・『バスカビル家の犬』(ドイル)
・『三丁目が戦争です』(筒井康隆)

 これはもう、SFファンでミステリー好きで『ゴールデンカムイ』に親近感を抱くようになるしかないというラインアップ。原作を児童向けに翻訳したものが大半だが、そこから空想や謎解きの面白さを知って、のめり込んでいった。ハッシュタグでコナン・ドイルやH.G.ウェルズ、福島正実が訳したSF作品を挙げた人も、そうした児童向けの翻訳版で触れた人が多そうだ。

 『三丁目が戦争です』については、『ハレンチ学園』の永井豪がイラストを描いていたこともあって、小学校の図書館に漫画があると騒ぎになって、みなで読みに行ってはラストのおにぎりの描写で衝撃を受けた。隣人が憎み合うようになる戦争への恐怖感が身に染みついたのも、これと「週刊少年ジャンプ」に連載されていた『はだしのゲン』を読んでいたことが大きいのかもしれない。

 つまりは、児童文学は時を超えて心に残り続けるものだということで、ハッシュタグによって紹介された児童文学の数々も同様に、読んだ人の今に何かしら影響を与えているのだろう。純粋に面白かった児童文学を選んだだけかもしれないが、面白さを感じたツボが今の好みにつながってるのだとしたら、それもまたひとつの影響の表れだ。

 そう思って、ハッシュタグで挙げられた書名をながめると、ファンタジーが現実的ではないと退けられることなく親しまれ、文芸の世界にも幻想性を帯びた作品が増えている理由の一端が見える気がする。

 上橋菜穂子『精霊の守り人』、村山早紀『シェーラひめのぼうけん』、J・K・ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石』。結構な人数が挙げているこれらのファンタジーは、1996年から97年あたりにスタートしたもので、小学生くらいで出会って読んだ人たちが20代から30代前半に大勢いて、リアリズムとはかけ離れた奇想天外な世界観でも、受け入れてしまえる土台を作っているのかもしれない。

 ミステリーへの親近感も、ハッシュタグで挙げられた書名からうかがえる。人気ははやみねかおる。『そして五人がいなくなる』から始まる「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズや「名探偵夢水清志郎の事件簿」シリーズは、94年にスタートして20年にわたり続いたこともあり、手にして名探偵の推理を楽しんだ人が、広い世代に及んでいそう。その割にアニメ化の話が出ていないと思ったら、先に「怪盗クイーン」シリーズがアニメとなって劇場公開された。

 ハッシュタグでも、夢水清志郎に負けない人気ぶりだったクイーン様には女性のファンが大勢いるようで、実際に映画『怪盗クイーンはサーカスがお好き』を観に行ったら、シアターを埋めた観客の9割以上が若い女性だった。美しさとカッコ良さを合わせ持った怪盗クイーンの絢爛たる活躍ぶりに夢中だった気持ちが、映像を見たことで蘇ったことだろう。一方でアニメ化けは、新しいファンを呼び込んでシリーズへの関心を未来に繋げていく。

 2013年に完結した令丈ヒロ子「若おかみは小学生!」シリーズがハッシュタグで挙がった背景に、2018年にテレビと劇場でアニメ化され、改めて作品の面白さを感じた人が多かったことがあるのでは、といった想像が浮かぶ。高坂希太郎監督が手掛けた映画『若おかみと小学生!』は、感涙を誘うストーリーが大人たちも呼び込んで盛り上がった。子供心に残った作品への愛情を刺激しつつ、次の世代へとつなげるための映像化作品を探すヒントに、「#わたしを作った児童文学5冊」はなるはずだ。

 上橋菜穂子、はやみねかおるらと並んで大勢が挙げた児童文学の作者があさのあつこ。『バッテリー』や『ランナー』といったスポーツものから『ねらわれた街 テレパシー少女「蘭」事件ノート』『NO.6』のようなSF作品まで、多彩なジャンルを手掛けて広い世代にファンを持つ。自身、ホームズ作品やアガサ・クリスティ、エラリー・クイーンの作品を子供の頃に読んで作家を志したというから、児童向けに多く編まれた作品集に触れたのかもしれない。

 谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』が角川つばさ文庫に入り、『転生したらスライムだった件』が児童向けのレーベルのかなで文庫から刊行され始めた今は、最初に手に取る児童文学がライトノベルということも起こりえる。20年後に同じハッシュタグで募ったとき、どのような書名が並ぶかが気になるところだ。

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