「楽しかった読書体験」を呼び覚ます、又吉直樹×ヨシタケシンスケ『その本は』を万人に薦めたい
読書の量に関わらず面白い
『その本は』は、ある程度読書している人でなければ楽しめないのかと聞かれれば、そんなことはない。
筆者が本書を仕事机の上に無造作に置いておいたら、小学校4年生の息子が手に取って読み始めた。息子は読書好きだが、大人と比較したら読書量は高が知れているし、好んで読むジャンルにも偏りがある。だから、あえて薦めなかった。
だが、息子は興味深く『その本は』を手に取り、夢中になって読んだ。そして、オチを嬉々として教えてくれた(筆者にとっては壮大なネタバレだった)。自分が興味を持たないジャンルの話が書いてあっても、面白さとテンポの良さが優って、あっという間に読んでしまった。
彼の様子を見ていて、自分は人の好きな本のジャンルを勝手に決めつけてフィルタリングして薦めていたことに気付いた。『その本は』は、本を紹介する側が人の好みを勝手にフィルタリングしている可能性まで教えてくれたのだ。
「いい本を探している人に自信を持って紹介できる本」として生まれた『その本は』は、嘘偽りなく、万人に紹介できる本だと思った。
あっという間に読めてしまうから達成感が得られる。だが、ボリュームとしては少ないので満足感は得られない。だから、すぐに次の本が読みたくなる。
その本は、自分の中の読書体験を掘り起こしてくれる。
その本は、読書欲を刺激してくれる。
その本は、自信を持って紹介したくなる。