読書経験ゼロから“小説紹介”の寵児へ けんごが語る、動画で本を読まない人を巻き込む極意

けんごがTikTokを選んだ理由

 TikTokなどのSNSで小説を紹介してきた、インフルエンサー・けんご。普段、本を読まない若年層を意識したわかりやすくキャッチーな紹介は人気を博し、動画で取り上げた後に重版した小説は10作品を超える。昨年の7月に紹介した筒井康隆氏の前衛小説『残像に口紅を』は、30年以上前の作品でありながら、急遽重版を重ね約11万5000部を増刷した。

 そんなけんごが2021年の「推し」小説を選んだ「けんご大賞」が昨年12月に発表され、『死にたがりの君に贈る物語』(綾崎隼/ポプラ社)などの合計11作品が受賞した。この発表を機に本人に直撃し、受賞作への思いから、TikTokでバズを起こし、多くの人に情報を届けるためのポイントまで、じっくり話を聞いた。(編集部)

ベストは「推し」がいる人に読んでほしい小説

ーー「けんご大賞」を始めた経緯から教えてください。

けんご:2021年の夏頃、Twitterで軽い気持ちで「12月31日に『2021年 けんご大賞』を発表できるように新作を読みまくりたいと思います」とつぶやいたんです。SNSなので(賞にして)なるべくキャッチーにしたいなと思いました。あと「一番面白かった作品は何ですか」とよく質問をいただくんですよね。それなら「けんご大賞」と称して発表してみようかなと。そうしたらいろんな出版社から「もっと盛り上げてやりましょう」とお声がけをいただいて、大きな企画になりました。

ーー2021年の1月から10月に刊行された小説が対象になっていますが、どういう基準で選びましたか?

けんご:本当に僕が面白いと思った作品です。選書自体はあっという間に終わりました。本を選んで紹介するのは、習慣みたいなものなので。基本的に順位はつけていなくて、全作品、心からおすすめです。

ーーそのなかでもベスト大賞は『死にたがりの君に贈る物語』でした。あらためて、本作を選んだ理由を教えてください。

けんご:あらすじとしては、まず超人気作家の訃報が流れて、Twitterと思われるSNSで大拡散されます。その作家を大好きだった不登校気味の女の子は、後追い自殺の未遂までしてしまう。人を死に貶めるほど、影響力のある作家だったんですね。

 その作家が書き終えることができなかった作品「Swallowtail Waltz」のファンクラブがありました。そこで「物語の先を考えようぜ」ということで、作品と同じように、山中の廃校に自殺未遂となった彼女を含む男女が集まる。するとある事件が起きてしまい......というストーリーです。

 これは本当に物語が面白かったんです。僕も時間をかけてTikTok動画をつくりましたし、反響も大きかった。視聴者さんからすると「けんご小説紹介」といえば『死にたがりの君に贈る物語』という印象を持っている方もいらっしゃるようです。だから2021年の僕のベスト本を決めるとしたら、この作品が一番ぴったりだと思いました。

ーーTikTokではこの作品は「人を救います」と紹介していましたね。

けんご:推しがいる人に読んでほしいと思いました。今、人間関係などに苦しんでいる人に刺さる内容だと思います。死ぬほど辛い思いをしている人は、この世の中にたくさんいる。本当にタイトル通り「死にたがりの君に贈る物語」。「人を救います」と、自信を持って言わせていただきました。

表現の場としてTikTokを選んだ理由とは?

ーー大学に入るまでは、あまり本は読まなかったそうですね。

けんご:まったくでした。小中高生の時の読書体験は皆無でしたね。ずっと野球をやっていて、部活がきつくて読む時間もきっかけもなかったんです。大学でも野球部に入っていましたが少し時間はできて、コスパよく時間を潰せる趣味がほしいなと思って、小説を手に取ってみたんです。

ーー最初は東野圭吾『白夜行』がきっかけだったと。

けんご:そうですね。もちろん東野さんのお名前は知っていました。あまりお金をかけずに時間を潰したいと思っていたので、分厚いレンガみたいな本が書店でもひときわ異彩を放っていて、興味本位で手に取りました。

 最初はこんなに分厚い本を最後まで読めるかなと思いました。でものんびり2週間くらいかけたら、読み切ることができて。物語がすごく面白かったのと、分厚い本を読み切った感動が大きかった。それから小説の魅力に浸かっていきました。

ーー大学生活では月10冊以上を読むこともあったそうでした。TikTokでの活動のように、周りの人に勧めていたんですか?

けんご:いや、ほとんど本の話をしたことはなかったんです。すごく仲良い友達に「これ読んでみなよ」と勧めたことはあったんですけど、全然読んでくれなくて。野球部の周りには、本当に本を読む人がいなかったんですよね。

ーー昨年、大学4年生の頃にTikTokで本紹介を始めています。なぜ、TikTokだったのでしょう?

けんご:まず、本の紹介を動画でやりたいという思いがありました。最初はYouTubeとTikTokのどちらでやるか迷いました。よくよく考えてみたら、YouTubeは動画のサムネイルとタイトルで選んで再生します。だから自分の好きな動画しか見ないんです。野球が好きな人は野球の動画を見るし、本が好きな人は本の動画を見る。でも本にまったく興味がない人は、その動画を見ることはないんですよ。

 かたやTikTokはおすすめ機能で、動画が勝手に流れてくる。本に興味がない人、むしろ嫌いだという人でも、動画が流れてきて面白そうだと思ったら、読むきっかけになるんじゃないかなと。そういう理由でTikTokを選びました。

ーー当初から反響は大きかったですか?

けんご:フォロワーゼロの状態からスタートして、動画4本目で紹介した小説が重版がかかったんですよ。こがらし輪音さんの『冬に咲く花のように生きたあなた』 (メディアワークス文庫)でした。刊行から1年弱経っていたんですけど。

 これには驚きました。最初はさくっと始めただけで、ダメだったらやめようという気持ちだったんですけど、だんだん反響も大きくなって。出版社や著者の方からお礼を伝えてもらえることもあって、自分のモチベーションになりました。

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