「浦安には新しい魚食文化のスタイルが渦巻いている」 鮮魚泉銀三代目・森田釣竿が語る、浦安と魚のディープな魅力

泉銀三代目・森田釣竿インタビュー

バンドやろうぜじゃないけど、魚さばこうぜ


――『魚食え!コノヤロー!!!』では、魚のあらゆる部位をいろいろな調理で味わいつくす方法が書かれています。鰹(カツオ)に関して、塩鰹、フライ、なめろう、塩焼き、煮付け、しぐれ煮、出汁(だし)、酒盗(しゅとう)とか。印象的だったのは、かつては加工場で処分されていたマグロの頭を「もったいないから買い取ってこい」と二代目のお父さんからいわれ、頭からさばいた脳天やホホ肉をトレーに入れて店頭に並べた話。私もそれらの部位を買って食べたことがあって、すごく美味かったです。

森田:昔は小さいメバチマグロの頭とかは、廃棄する業者が多かった。誰も見向きしない感じで値段も安くて。今でこそSDGsとかいって捨てないことが褒められるけど、魚屋の自分にいわせれば、そんなことはとっくにやってたし、あなたたちが忘れてただけ。そうしてみんなの先を行っちゃうから、なかなか認めてもらえなかった。バンドも始めちゃったし、同業者にしたら意味わかんないじゃないですか。ふざけてると思われるし変わり者だといわれる。でも、本人は本気なんです。ステージに立つ時、客に対して、ライブハウスで遊びやがって、全員ぶっつぶしてやるって気持ちだった。喧嘩のつもりでやってたから、最初は怖かったと思う。

大ぶりなアサリはこの日のオススメ

――魚をテーマにしたフィッシュロック・バンド「漁港」のロゴマークは「港」の字が左右反転していて、横に並んだ2文字の両端にさんずいがくるデザインですね。本によると森田さんが書いたそうですが。

森田:左右のバランスがとれた、鏡文字っぽいMETALLICAやABBAのロゴみたいなのがいいなと思って、俺が筆で書いたんですよ。

「漁港」のロゴ

――「漁港」を結成したのはいつですか。

森田:2000年。ライブハウスでマグロの頭を解体するのが衝撃だってことで、写真週刊誌の「FRIDAY」に載って、テレビでも「とくダネ!」で全国放送。番組をたまたま見ていた叔父さんが、グループサウンズのザ·ジャガーズのベーシストだった人で、メジャーデビューすれば稼げるぞといってきた。で、22のレコード会社から誘いがあって外資系は敵だ、なめんなよっていってたんだけど、世界的にライブして外国の人にわかってもらうならと思ってユニバーサルミュージックを選んじゃった(笑)(2004年、シングル「鮪(まぐろ)」でメジャーデビュー)。話が違うじゃねえかってまわりから怒られた。同期で売れている人もいるけど、俺だけこのまま。

――でも、それが本来の姿ですから。

森田:そうそう。ライブ活動は魚を売るためにやってたからね。捨てる部位だったマグロの頭をかぶってステージに出てきて、食べ残さないことで魚は成仏できる、食べ残すから成仏できないんだということでマグロを解体していた。それがだいぶ定着して、SDGsの流れからまた取材されNHKのドキュメンタリーに出ました。

大きな魚も半身や丸ごとで売っている

――「漁港」の「魚食えコノヤロ音頭」という曲の歌詞も載ったこの本の特徴は、切身になる前の丸魚を自分でさばいて丸ごと食べようと提案していることです。最近は動画もアップしていますよね。

さかなクン✕森田釣竿のお魚談義!/『魚食え!コノヤロー!!!』(時事通信社/森田釣竿・著)より

森田:バンドやろうぜじゃないけど、魚さばこうぜですよ。いつまでもファンじゃダメだと、俺は思うの。バンドは自分でやったほうが絶対面白いし、音楽がもっとみえてくる。野球は草野球やるし、サッカーも自分でやるでしょ。だったら「食」だってそうしたほうがいい。材料に関して、多くの人は漁に出ない、獲りにいかないですんでるんだから、食べることくらい人任せにするのはやめようよ、自分でやってごらんということです。そうすれば、気づくことがたくさん出てくる。大人になると怪我することが少なくなるけど、包丁を持つと指とか切っちゃう。でも、怪我すると上手になる。魚の骨が刺さって痛えとか、幼い頃を思い出す。そうして勉強していく。ざまみろ、おめでとうですよ。あと、丸魚のリアリティってのがある。牛丼のチェーン店で食べた時、牛が死んでるとは考えないでしょ、感覚として。あれは畜肉だから。天然じゃなく、人間が作っているから感じないんだ、きっと。だけど魚って、大部分は天然だから、こんなにいい食育はない。血が出るし、心臓が出てくるし、胃袋のなかから溶けた魚が出てくることもある。これは命をもらっているんだなと思いますよね。食べるとは、そういうことなんだ。それが自然なんじゃないかな。牛や豚じゃ持って帰れないもの。

――森田家で一番食べる魚はなんですか。

森田:売れ残ったものですよ。

――どういう調理法で。

森田:ものによって全然違う。残ったマグロは醤油ぶっかけちゃって、漬けの状態でただかっこむと。あと、よくいうんだけど、塩マグロがいい。塩でしめて、臭みを出して塩のうまみでおいしくいただいちゃう。今日、店にあるオオカミウオなら、揚げるとフワフワになる。フリット、唐揚げがいいし、ムニエルもおいしい。魚によっていろいろ。

フライにすると絶品だというオオカミウオ

――最近のバンド活動は。

森田:コロナになってから全然やれてないんですよ。毎年、海の日にワンマンライブをやっていて、2020年は「泉銀」70周年×「漁港」20周年だったから記念ライブを企画したんだけど、それもダメになった。今年は考えているけど、まだはっきりしたことは……。

――一方、路面店をかまえて5周年。個人商店を経営する難しさ、面白さとはなんですか。

森田:魚屋って仕事自体、難しい。だって、時間たつと商品が腐っちゃうんだもの。スマホを売るのならあわてないし、腐んないからここまで本気で売らないと思う。だから、俺にはあってる。毎日、本気。自分は、本当はものぐさなんです。なんにもやりたくないって人間なんだけど、それを許さない「お前は働け」という神様がいるんじゃない?(笑) 魚が待ってるから動かざるをえないし、必死にならないと。だって、魚は喋れないし、俺が代わりに喋ってあげる。MCですよ。本気になれるから、すごく大変だけど俺の性分にあってる。浦安って他の地域よりけっこう魚屋が多いんですよ。漁師町だったし、市場があったし、その流れがまだ受け継がれてるから。浦安で海をテーマにしているのは、東京ディズニーシーだけではない。そこをもっと注目してほしいね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「著者」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる