少年に訪れるのは呪いか、祝福か? ジャンプ+『エクソシストを堕とせない』の恋の重要性

『エクソシストを堕とせない』レビュー

 第1巻では「強欲」の魔王・マモンとの対決と同時進行でイムリとの同居生活がラブコメテイストで描かれる。イムリとのやりとりに「楽しさ」や「やすらぎ」を感じるようになっていく少年。しかし、彼女の正体は「憤怒」の魔王・サタンが送り込んだ悪魔・リリン(サキュバスの原種)だった。

 現世への復活を目前に控えたサタンは、魔王クラスの大悪魔を次々と倒していく少年の強さを見て「攻め方」を変更し、恋に堕とそうと目論む。生まれつき魔力を持たないイムリはサタンの命を受けて少年に接触。しかしこの作戦は極秘裏のものだったため、他の悪魔はイムリの正体を知らずに襲いかかってくる。必死で彼女を守ろうとする少年の姿を見たイムリが、今後、敵となるのか味方となるのは気になるところだ。

 一方、イムリとの出会いは少年にとってどのような意味を持つのか? 少年がイムリと出会う4年前の出来事を描いたEpisode1は、物語の前日譚となっており、色欲の魔王・アスモデウスとの戦いが描かれている。そこで強調されているのは少年が抱える苦悩だ。捨て子だった少年はエクソシストとして育てられたのだが、虐待に等しい過酷な特訓を受けていたことが回想で明らかになる。

 聖書の教えを内面化して悪魔を祓う少年は、心身共に最強のエクソシストへと成長した。アスモデウスに操られた裸の女たちが押し寄せてきた際には、右目の眼球をえぐりとることで肉欲の誘惑を振り払い、依代となる自らの身体への強い負荷を恐れずに「大天使の力」を開放してアスモデウスを地獄へと退けた。

 しかし、少年が無茶な戦いを躊躇なくおこなうのは、自殺願望があるからだった。そのことを教育係の神父に見抜かれた少年は「生きてる うちは幸せに なれない」「たくさん 悪魔と 戦って 早く天国に 行きたい」と、苦しい心情を泣きながら吐露する。そんな少年に対して神父は「恋をしろ 人を愛せ」と助言を与える。

 だからこそ「恋とは何か」を少年は知りたいと考えるようになったのだが、読んでいて気になるのは、主人公が「少年」「神父」と劇中で呼ばれ、名前が登場しないこと。

 本作は細かく作り込まれた設定を小出しにしているため、多くの謎がある。少年の名が明かされていないのも、今後の伏線なのかもしれないが、そもそも名前が呼ばれないこと自体が、彼の人間性が阻害されていることを表しているようにも見える。

 イムリのためにケーキを作った後「世界をかけた 悪との戦いより」「キッチンに 立っている方が 好きだ」と少年は言う。この台詞には少年の人間らしさが感じられ、少しだけ安心する。これから少年がイムリに恋に堕ちた時、そしてイムリの正体を知った時、彼に訪れるのは祝福か破滅か?

 バトル漫画としても恋愛漫画としても続きが楽しみである。

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